第67回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2014】12
青空が広がったものの、強風に見舞われた映画祭8日目の21日(水)。“コンペティション”部門では、フランス人監督の2作品、ミシェル・アザナヴィシウス監督の『ザ・サーチ』とジャン=リュック・ゴダール監督の『グッドバイ・トゥ・ランゲージ』が正式上映。招待部門ではアンドレ・テシネ監督の『イン・ザ・ネーム・オブ・マイ・ドーター』など3作品を上映。“ある視点”部門には2作品が登場、“カンヌ・クラシック”部門では、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』(1984年)などが上映され、ソフィア・ローレンによる特別講義“マスタークラス”が行われた。
また、併行部門の“監督週間”では、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が、14時半&20時半の2度に渡って上映されている。
◆ミシェル・アザナヴィシウス監督の『ザ・サーチ』はチェチェン紛争を背景にしたシリアスなドラマ!
2011年に、招待作品からコンペティション部門に格上げされて上映されたモノクロ&サイレント映画の快作『アーティスト』でジャン・デュジャルダンに男優賞をもたらし、米アカデミー賞でも5部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞・作曲賞・衣装デザイン賞)を制したミシェル・アザナヴィシウス監督。この作品で世界に名を轟かせた彼の2度目のコンペ作『ザ・サーチ』は、これまでの軽やか&コミカルなテイストを一変させ、巨匠フレッド・ジンネマン監督の『山河遥かなり』(1947年)の舞台を90年代末のチェチェンに置き換えてリメイクした社会派のヒューマンドラマだ。
第二次チェチェン紛争で両親を殺され、村を逃げ出して難民となったチェチェンの少年が、NGO職員のキャロル(ベレニス・ベジョ)と出会って救われ、彼女との交流を通して次第に普通の生活を取り戻していく。同じ頃、少年の姉は生き別れた弟の消息を必死に尋ね歩いていた。一方、ロシア軍に入隊した若者コーリャ(マキシム・エメリアノフ)は……。アザナヴィシウス監督自らが脚色した本作は紛争に翻弄される人間たちの運命を交錯させて描いたシリアスなドラマで、米国女優のアネット・ベニングが重石となる役柄で助演している。また、チェチェンの姉弟を健気に演じた子役2人の好演も光っており、本筋とは関係のない短いシーンながらコサックダンスのステップを披露した少年役の子の半端ない体のキレと高度なスキルには瞠目させられた。
8時半からの上映に引き続き、11時半から行われた公式記者会見には、ミシェル・アザナヴィシウス監督、ベレニス・ベジョ、マキシム・エメリアノフと姉弟に扮した子役2人らが登壇。
「映画に一度も取り上がられたことのないこのストーリーを語りたかった」というミシェル・アザナヴィシウス監督は、「チェチェンに興味を持ったのは、現代戦争の要素が全てあったから。戦争は軍人から国民へと波及していく。映画で言及したのは、数十万人の死者のこと。しかしながら、戦争イメージはコントロールされ、誘導されがちだ。人々が虐殺に直面しているのに、世界が無関心であることに僕は衝撃を受けたんだ。なので、軍人と民間人の区別なく、戦争に苦しんでいる人々を描こうと思った」とコメント。さらには、ロシア軍の描き方について「登場人物たちが政治的意識を持つことは望んでいなかったが、読んだ資料によれば、ロシア軍は厳しく、その動きは荒々しかった。当時、ロシア軍は再建の段階にあり、一部は傭兵で編成されていたんだ。この点については多くの資料を集め調査した。兵士の日々の現実を歪めたとは思っていないよ」と語った。
一方、アザナヴィシウス監督の妻であり、本作での好演も光るベレニス・ベジョ(『アーティスト』で脚光を浴び、2012年にはオープニング&クロージング・セレモニーの司会という大役を果たし、2013年の『ある過去の行方』で女優賞を獲得!)は、「興味深かったのは、ミシェルが私の役を物語のヒロインではない人物として書いてくれたこと。この作品は、民間人が矢面に立たされた戦争の映画で、過酷な状況に立ち向かう強い精神について語っています。また、使用された音楽はロケ撮影を行った村々の文化の一部であり、村にしっかりと根付いたモノでした」と言い添えた。
◆本日と明日の両日に分けて上映される“シネフォンダシヨン”部門には16作品が参加!
“シネフォンダシヨン”部門に出品される平柳敦子監督の中編『オー・ルーシー!』の上映を前に、本作に主演した女優の桃井かおりがカンヌ入りし、13時から日本の報道陣が囲んだ。
当時、妊娠中だった平柳監督から、出産前に撮り上げたいとの出演要請を受け、快諾した桃井かおりは、こなれて予定調和にならないよう敢えて本作ではリハーサルなしで撮影に臨んだという。新人監督を応援したいので、無償で出演した本作も含め、ギャラの少ないインディーズ作品への出演も厭わないと語る彼女は、平柳監督が現在準備を進めている『オー・ルーシー!』の長編化に関しても主演するつもりだとのことで、その暁には“編集”作業にも意欲的に携わりたいと語った。
その後、“シネフォンダシヨン”テラスに場所を変え、桃井かおりと平柳監督とのツーショットを撮影。さらには同部門に選出されているもう1人の日本人監督、早川千絵監督も合流し、3ショット撮影を行った。
早川千絵監督の『ナイアガラ』は、詩情豊かな27分の中編。幼い頃に両親を亡くし施設で育った18歳の女性やまめが、死刑囚である祖父の存在を知り、やまめの認知症の祖母を介護するヘルパーの青年と共に街の音を集め、塀の中の祖父へ外界の音を贈ろうとするが……。
1976年生まれの早川監督は、映画監督を志してアメリカに留学するも挫折、出産を機に10年間のニューヨーク生活を切り上げて家族で帰国。だが、夢を捨てられず、テレビ局の映画部で製作進行の仕事に就きながらENBUゼミナールの夜間コースに1年間通い、卒業制作として『ナイアガラ』を撮り上げた努力の人で、平柳監督同様、2児の母でもある。本作は明日、22日の11時から上映されるプログラム3でお披露目される。
◆『グッドバイ・トゥ・ランゲージ』は御年83歳のジャン=リュック・ゴダールが撮った3D映画!
ヌーヴェルヴァーグの旗手として知られ、現在も精力的に活動している鬼才ジャン=リュック・ゴダール監督が、2001年の『愛の世紀』以来13年ぶり(2010年の前作『ゴダール・ソシアリスム』は“ある視点”部門での上映)にコンペに参戦! 69分の中編3D映画に仕上げられた『グッドバイ・トゥ・ランゲージ』が、16時からプレス上映と兼ねて正式上映された。
既婚女性と独身男性が出会って愛し合い、喧嘩をする。一匹の犬が都会と田舎を彷徨い、季節が巡っていく……。撮影場所、そして画調や色調をも目まぐるしく変えた本作は、“3Dで遊んでみました”感のある奇抜な作品で、出演はエロイーズ・ゴデ、ゾーエ・ブリュノー、カメル・アブデリら。
だが、当のジャン=リュック・ゴダール監督は2010年同様、確信犯的に現地入りをせず、17時半から予定されていた公式記者会見はキャンセルに。なお、4枚目にアップした写真は、上映後のスタンディングオベーションに応える『グッドバイ・トゥ・ランゲージ』の関係者たちで、中央のサマージェケット姿の男性は本作を製作したフランスの大物プロデューサー、アラン・サルド。
(記事構成:Y. KIKKA)