第27回東京国際映画祭『デビルズ・ノット』松江哲明監督&高橋諭治(映画ライター)トークセッション
11月14日(金)公開となります、映画『デビルズ・ノット』(コリン・ファース&リース・ウィザースプーン出演)が第27回東京国際映画祭〈特別招待作品〉として選出されたことを記念して、上映後映画監督の松江哲明さん、映画ライターの高橋諭治さんを迎えてトークショーを行いました。実際にアメリカで起こり、事件から20年経った今でも真相は謎に包まれたままの驚愕の未解決事件とその映画化について、満席の映画ファンに向けて必聴のトークを繰り広げました!
映画『デビルズ・ノット』 トークショー実施概要
【日時】 10月25日(土) 上映終了後
【会場】 TOHOシネマズ日本橋 スクリーン8
【登壇者】松江哲明(監督) 高橋諭治(映画ライター)
MC:松江監督はこの事件のことは元々ご存知だったんですか?
松江:パラダイスロストという元の事件を追ったドキュメンタリーは観ていました。元々ぼくはこういう未解決モノが大好きなんです。そういうのを観て、ゾッとして、嫌な気持ちになる。カタルシスがないところが好きなんですね。この事件は本当に他人事じゃないです。捕まった3人があのTシャツ着ていて捕まるなら、俺ならどうなっちゃうんだろうと(笑)
MC:この事件が多くの人の興味を惹きつけるのはどういうところなんでしょう。
松江:この事件に惹きつけられるのは、この町全体の価値観や偏見、警察の先入観や色んな側面があるところなんですが、それがどんどん明らかになってくるんです。
ドキュメンタリー自体の撮影ではよくあることなんですが、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三さんのように、カメラが入ることによって自分自身を演じてしまう、カメラの前でどんどん自分とは違うものが出てしまったりする。そうなってしまった人々により、話が進んだり、事実が明らかになったりするんですが、この事件もドキュメンタリーがきっかけで、非常に深い事件になりました。
高橋:この事件はとてつもなく複雑でさまざまな側面があるので、映画化しようとすると色んな切り口がありますよね。誰を主人公にするかによってガラッとイメージが変わるというか。エゴヤン監督と脚本家チームはその点、意外な人物を主人公にしたと思います。
MC:これは≪未解決事件≫で、犯人は20年たってもわからないままですが、殺人が起こったわけですから、犯人はまぎれもなくいるはずですよね。それについてはどう思いますか?
高橋:映画では逮捕された3人以外に容疑者が4人描かれます。デイン・デハーンが演じていたアイスクリーム売りの若者。事件当日、近くのレストランに泥だらけ血まみれで現れた黒人。警察が子供の捜索に気を取られている間に忽然と消えてしまいます。そして残り2人は遺族の中にいると描かれています。
松江:犯人は誰か・・事件を知ってから何年もたちますが、本当に判らないですね。
高橋:当時、殺された児童たちの体には無数の切り傷、噛み傷があったために悪魔崇拝者によって生贄にされたのではないかと警察はにらんだのですが、「ウエスト・オブ・メンフィス」というドキュメンタリーの検証に寄ると、子どもたちが沈んでいた川には実はかみつき亀が多く生息していたらしいんですね。つまり動物につけられた傷だった、と・・
松江:警察の見立ては根本からしておかしかったってことですよね。とんでもない話です。
高橋:考えてみれば、3人を同時に殺そうとしたのか、1人を狙ってほかの2人が巻き添えになったのか、それすらもまだ固められていないんですよね。
松江:それだからこそ人間はどうしても知ろうとする、調べようとしたくなりますよね。その知ろうとする心自体が犯人を生み出してしまう、というところがこの事件の面白いところだと思います。自分自身の心を観ているような感じです。
MC:ここでアトム・エゴヤン監督に数日前実施した電話インタビューで、真犯人像についての監督ご自身の考えを聞いたものをお聞かせいたします。
エゴヤン監督のコメント:「私なりの理論はありますが、この映画には私の考えは出していません。証明もできないし証拠もありませんが、ロジックだけで考えると、子どもたちの体を縛っていた靴紐の縛り方が、あまりにもきちんと縛られていること、現場に血も指紋もDNDもなんの証拠も残されていないことから、非常にプロフェッショナルな人がやったのではないかと思っています」
松江:アトム・エゴヤン監督は、一見ミステリーを扱いながら、単純に謎が解ける話ではなく、ミステリーに翻弄されて人生が変わってしまうような、事件の中にいる人がどうなるのかというところを描いてきた監督なので、アトム・エゴヤンを選択したプロデューサーはすごいなと思いましたね。
高橋:私もこの事件が劇映画として制作されると聞いたときは、お、アトム・エゴヤンが監督かとかなり期待が高まりました。脚本家をみるとポール・ハリス・ボードマンとスコット・デリクソンです。この二人は『エミリー・ローズ』や『ニューヨーク心霊捜査官』などを手掛け、悪魔がらみのストーリーを扱った脚本でも、広い意味での悪魔、社会に潜んでいたり、私たちの心の中にいるかもしれない悪魔についてちゃんと目配せできる2人です。このコンビが『デビルズ・ノット』の脚本を手掛けたのはまさに必然と言えます。というのも、この話は悪魔を糾弾しようとした社会が、悪魔になってしまった、という事件ですから。
松江:映画っていうのはそういうものがあると教えてくれる場ですよね。道徳ではなく割り切れないものがある、学校で教えないものを教えてくれる場だと思います。もやもやした言葉で説明しにくいものが表現されている、マイノリティを代弁してくれるものだと思います。