ホドロフスキー監督、新作と「人間タロット」で観客を癒やした!! 『リアリティのダンス』プレミア上映
2014年7月12日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開されるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作『リアリティのダンス』のプレミア上映イベントが、東京・新橋のヤクルトホールにて行われた。1990年の『The
Rainbow Thief』(日本未公開)以来23年ぶりとなるホドロフスキーの新作とあって、500席となる会場のチケットは販売開始後、すぐにソールドアウト。小雨降りしきる中、大勢の熱狂的なファンが会場を訪れた。
上映後、全身白でコーディネートしたホドロフスキーが颯爽と現れると、場内には割れんばかりの拍手と歓声が飛んだ。ホドロフスキー監督は「私は観客の感動を呼ぶためでなく、一人一人がそれぞれの方法で反応してくれればいいと思って映画を作ってきました。ですが、今日この『リアリティのダンス』にみなさんがとてもよろこんでくれたことはまるで奇跡のようなことです」と感謝の言葉を述べた。
『リアリティのダンス』は、「家族の再生」と「魂の癒し」をテーマに、ホドロフスキー監督の故郷チリを舞台に、少年アレハンドロと彼の家族をめぐる関係、そして彼がどのように世界と対峙していくかを現実と空想を交錯させ描いている。監督の息子であるブロンティス・ホドロフスキーが少年の父役を演じるほか、アダンやクリストバルといったホドロフスキーの息子たちが出演し、妻のパスカルも衣装デザインとして参加している。監督は自分の息子に父親役を演じさせたことを「不思議なことでした。わたしは自分の父親を思い、いたたまれない気持ちになりました。息子の中の、父を憎むという得難い経験をしたのです」と、この撮影自体がホドロフスキー一家の再生と癒しの物語であることを強調した。
また、現代社会全体の問題である「人は家族にどう向きあっていけばいいか」という質問に対して監督は「その深い質問には、分厚い本でないと説明できない(笑)。わたしはサイコマジックという心理セラピーで家族を分析する『Psicomagia』という本を書きました。それは、自分の祖父母の代まで研究することで自身を癒やすという内容です。ですが、この『リアリティのダンス』では、芸術的なかたちでそのメソッドを昇華させるように作りました」と語った。
続いて、タロットカードの研究者としても知られるホドロフスキー監督が会場の観客からの悩み相談に答えることに。仮面をかぶった22名が、ホドロフスキー自身が古いマルセイユ・タロットを復刻してデザインした特大タロットを抱え「人間タロットカード」として舞台に登場した。「幼稚園の先生になりたいのですが、レポートの締切が4日後なのにまだ書けていないんです。私は職業に就けるでしょうか?」という女性からの相談には「何を占ったらいいんだ?自分がなりたいと思っている職業なら、なぜ勉強しない?」とタロットを引く前に一喝。そして別の女性の「意中の男性がいて告白すべきか悩んでいる」という相談には「すればいいじゃないか!」と即答し「指輪を口移しで贈れ!」とアドバイスを送った。さらに「髪をのばすべきか、このままにするべきか」という悩みには、彼女が選んだタロットカードの意味から「髪を伸ばすとセクシャルなパワーが増して権力をつかむことができますから、ぜひ髪を伸ばしてください」と答えた。
最後に、首に痛みがあり、どんなセラピーを受けても治らないというペルー生まれの青年が登場。ホドロフスキー監督は、彼が選んだカードとともに生い立ちを質問していくなかで、お母さんの不在やわだかまりによる痛みではないかと分析し、客席にスペイン語の歌を歌える人はいないか呼びかけた。ひとりの女性が舞台に招かれると、監督は彼女に彼の首元でスペイン語の子守唄を歌わせる。笑いと緊張が交錯する不思議な空気に包まれ観客が固唾をのむなか、彼がひいた次のカードを見た監督は「賢くなって、ペルーに帰ってしまった母さんに会いにいってください。そうすれば首の痛みはなくなります」と励ました。
『リアリティのダンス』のテーマそのままに、タロットリーディングでもオーディエンスの魂を癒やそうとしたホドロフスキー監督。彼の妥協を許さない生き方とエネルギッシュな魅力が十二分に伝わるイベントとなった。
『リアリティのダンス』は2014年7月12日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、 渋谷アップリンクほか、全国順次公開となる。