12月6日、ロフトプラスワンにて映画秘宝presents「ナカコ・ナイト2」が開催された。
伝説の映画ジャーナリストの中子真治さんは、80年代に「SFX(=特撮)」という言葉を定着させた仕掛け人。インターネットが今のように普及しておらず、映画ファンが情報に飢えていた時代に単身で渡米。ハリウッドで映画監督・スターへのインタビュー、SF・ホラー映画の撮影現場レポートを日本に発信し続けた。

今回は、昨年5月に大好評を得たハリウッドSFX最前線の裏側を語りつくすイベント「ナカコ・ナイト」に続いて、中子氏の記事・評論を479ページに収めた『中子真治 SF映画評集成 ハリウッド80’s SFX映画最前線』(11月26日 洋泉社刊)の刊行を記念してのイベントだ。

ゲストは『中子真治 SF映画評集成』編集者の神武団四郎さん、映画評論家で元『スターログ』副編集長の高橋良平さん、『映画秘宝』映画ライター・デザイナーの高橋ヨシキさん。司会はライターで新宿ロフトプラスワンのスタッフ多田遠志さん。

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■深く追求したくなる映画やドラマがあった時代
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イベントのイントロで、中子さんはこんなエピソードを披露した。
イベント『ナカコナイト2』の発起人の一人である小野里さんに、ツイッターのまとめリンクを教えてもらった中子さん。
『中子真治 SF映画評集成』に収録の、アメリカに行く前にSF雑誌の『奇想天外』で連載していた『新主流派SF映画作家論』のことを取り上げたツイートを見つけたと言う。

中子:当時『新主流派 SF映画作家論』で、どうしても『プリズナーNo.6』を取り上げたかったから、イントロダクションとして、パトリック・マクグーハンが監督した『刑事コロンボ』のエピソードについて書いたんです。編集長から原稿用紙50〜60枚のオファーがあって、ネタをたくさん入れないと成立しない。しょうがないからコロンボの話を入れたんだけど、ツイッターで「それが面白い」と書いてらした人がいて。そうなのかなーと思って読み直したら。結構面白い(笑)。
昔はこんなに一つのTVドラマについて深く考えてみたいなとか触れてみたいというのがあったんですよ。
最近ないでしょう。J・キャメロンがいい例。全部説明しちゃう。イマジネーションの入る隙間がない。
好奇心や興味を遊ばせてくれるようなものがここにはあったんだなって、コロンボの原稿を読みながら思いました。今は絶対に書けないなって。

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■最近は技術を見せる映画が主流になっている
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司会の多田さんから最近の映画についての感想を求められた中子さんは

中子:『アバター』何あれ(笑)。『マン・オブ・スティール』もセピア色の『アバター』っていう感じ。あんなに速く飛んだら面白くないし。

高橋ヨシキ:画が『テキサス・チェーンソー』と一緒で。スーパーヒーローでそれはないだろうって(笑)

中子:ただの映画ファンになって、歳を取るから記憶力も無くなってきて。観たらすぐ忘れてしまうものばかりなのね。それは僕の責任か?(笑)

現在中子さんは映画ジャーナリストとしての仕事からは離れ、故郷の飛騨高山でアート・トイやプロップ・レプリカのショップ&ギャラリー「留之助商店」を営んでいる。

中子:心に染みないような映画ばかりで、この映画について語ってみたいなとか、こだわって研究したいと思う映画になかなか巡り会えないんです。

多田:CG時代になって、以前のようにSFXが介在する余地がないからですか?

中子:それはあるかも。『ゼロ・グラビティ』は面白いんだけど、あのよく出来たCG映像が誰によって、どう作られたかまで興味がいかない。僕が映画と付き合って来た時は「人」と付き合って来たんだよね。
作った人に興味があって、ぜひそういう人たちと語り合いたいと思った。
こういう映画にもきっと優れたクリエイターがたくさんいるんだろうけど、“CGなんだよね”という言葉で簡単に要約されてしまう侘しさのようなものを感じる。作った人に会いたいと思わなくなってしまった。

高橋ヨシキ:同じ事をジョン・ランディスがネットで発言していて、「昔は映画会社もプロデューサーも顔が見える個性のある人たちだったけど、今はビジネスマンしかいないので誰が誰か分からない。その頃はみんなが“いい映画を作ろう!”ということで一致していたけど今は利益優先。『アバター』も『ゼロ・グラビティ』も特撮は凄いけど、いい映画かと言われたら僕は違うと思う」と。

中子:技術を見せる映画になっているよね。無重力の地に足がつかない恐怖は感じさせてくれたけど、それだけかな。

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■面白いものを見つけたら人に見せたかった
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中子さんは、今回のゲストの1人、元『スターログ』副編集長の高橋良平さんについて、当時他誌ではなかなか執筆させてもらえなかった中子さんにオファーしてくれた恩人だと語る。

中子:この人のおかげで『スターログ』で好きなだけSFXのレポートを記事に出来たんですよ。

当時、広告業界にいた中子さんは、丸坊主で童顔を隠すためレイバンのサングラスをかけ、周囲からなめられないようにしていたという。高橋良平さんから見た中子さんは、

高橋良平:一見ヤクザだよね(笑)。見た目と違って原稿は非常に熱心。反面繊細で、人前に出る時やインタビューでは大胆に振舞えるけど、その前は半端ではないくらい緊 張していましたね。
中子さんはフィルム・コレクターでもあって、自分で観たいから買い付ける。面白いものを見つけたら人に見せたいというスタンスでしたね。

中子:自分だけで楽しむ人もいたけどね(笑)。僕はそのころコピーライターとグラフィックデザインをやっていて、広告の入稿のために『奇想天外』の編集部に行ったのね。SF映画の話をし始めたらみんながびっくりして。面白いからこいつ使えるかもしれないとなった。『奇想天外』の小さなコラムで映画評を書いた最初が『プロフェシー 恐怖の予言』。

神武:未公開の作品をどんどん紹介していたことについては?

中子:ルネ・ラルーの『ファンタスティック・プラネット』とかラルフ・バクシの『ウィザーズ』とか、未公開の絶対観られない 映画が一杯あってフィルムをコツコツ集めていたね。上映会しようと思って。

高橋ヨシキ:当時『スターログ』にフィルムの広告が載っている中で、『メトロポリス』の50分くらいのやつが8ミリが20万円とか。そんなものを買える人が世の中にいるのか?と思っていたら(笑)
それそこ未公開映画の情報は中子さんの本とか『スターログ』とかしか見るしかなくて、本編は絶対見られないもんだと思って諦めていましたね。
今はそういう意味ではよくなったと思いますけど。

中子:簡単に見られると時系列があいまいになって、映画の歴史から離れていって。レイ・ハリーハウゼンがあの時代どんなに苦心してあの凄い映画を作ったのかなんてことは、なかなか分からないよね。そういうものが繋がって今があるっていう事が。

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■『ホドロフスキーのDUNE』予告編を観ながら
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壇上のスクリーンでは、L.A.時代にスピルバーグ、リンチ、クローネンバーグ、ハリソン・フォードら映画監督・スターたちと一緒に撮った写真が次々映し出されている。
スクリーンは坊主頭の中子さんとダン・オバノンの写真。2014年に公開予定のドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』の予告編が流れる。1974年にホドロフスキーが企画し未完となったSF大作で、その後1984年にデヴィッド・リンチが『デューン/砂の惑星』として映画化した。
ホドロフスキー版の『DUNE』にはバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)の代表作家メビウス、SF画家クリス・フォス、『エイリアン』『トータル・リコ ール』のダン・オバノン、H・R・ギーガーが参加予定だった。

中子:映画を観させて頂いたけど、なかなかオバノンの話に至らないんだよね。で、やっと『ダークスター』がどーんと出て来るともうドキドキだよね(笑)
ここでやっとオバノンの話になって、「自分にはウォリアーズが2人いる」って言うんだよね。メビウスとオバノンの話。よかったなって。最初はオバノン無視されちゃうのかってちょっと心配になった(笑)。
エイリアンのプロモーションではオバノンの名前って完全に抹消されたからね。
何故今この映画なのかって思うんですけど。

多田:まず本が大々的に発売されて、日本でも翻訳されてます。ブルーレイでも全部出直したし。ホドロフスキー、冒険してるんです。

中子:そうなんだ。僕の本が影響した訳じゃないんだ。(会場爆笑)。とりあえず必見だね。

高橋ヨシキ:薬使わないでどうやって幻覚観るかばかり考えていて、映画秘宝のインタビューでも言ってたけど4日寝なければかなり近いって(笑)

イベントはトータル約3時間、ディープな話がたっぷり披露され、最後には高確率で中子さんからのプレゼントであるポスターやグッズがあたる抽選会も実際された。特賞は留之助商店謹製のモデルガン、留之助ブラスターPROという大盤振る舞いに会場が湧いた。
次回は『スターログナイト』をやりたいという話も大いに盛り上がった。その開催の実現を期待したい。

(Report:デューイ松田)