8月31日(土)ユーロスペースにて『日本の悲劇』が公開となり、小林政広監督、仲代達矢さん、北村一輝さん、大森暁美さん、寺島しのぶさんを迎えて初日舞台挨拶が行われ、全国公開を迎えた喜びと撮影中の思い出などを語ってくれました。

司会:まずはみなさまから初日を迎えての今のお気持ちを一言ずつお願いします。

小林政広監督(以下小林監督):撮影したのは2011年の震災の年から半年たったころでして、ちょうど僕自身にいろんなことがあって、ふさぎ込んでいたんで、気持ちを吐き出すように脚本を書いたんですけれども…。仲代さんやみなさんにも参加していただいて、映画になってやっと自分の手元から離れてホッとしていますし、嬉しいです。

仲代達矢(以下仲代):この暑い中お越しいただきありがとうございます。私は小林監督と『春との旅』が終わったときに、また何かあればやりたいですね、と話していたんですが、次に来たのがこの『日本の悲劇』でした。シナリオを読んだとき、私は長い間役者をやっていますが、こんなシナリオは初めてだと思いました。これから観るお客さんに先入観を与えてはいけないので、これ以上は言いませんが、私は究極の家族愛の話だと思っています。どうぞ観てください。

北村一輝(以下北村):脚本を読んだ時に、力強さを感じました。それから、仲代達矢さんと芝居ができると知り、こんなご褒美いただいていいのかなと思いました。初めはどういうふうにやろうかと考えましたが、俳優としてではなく人間として思った通りにやればいいかなと。小手先ではなく気持ちでぶつかりたいなと思ってこの作品に挑戦しました。是非、楽しみに観てください。

大森暁美(以下大森):御覧になったあと、どうぞご批評とご指示をください。そして反省させてください。

寺島しのぶ(以下寺島):小林監督の作品は何本か拝見していて、『春との旅』を観て自分の中で決定的になって、本当に出させていただきたいなと思いました。ある映画の授賞式のときに監督とご一緒して「ぜひ、通行人でもなんでも出させてください」と監督に自らお願いし、後日、監督からお手紙をいただいてこの作品に私も参加させていただくことができました。監督の長回しはとても有名だと思うんですが、私もその快感な空気をこちらにいる3人の共演者のみなさんと過ごすことができて、すごく楽しくてエキサイティングな時間を過ごすことができました。それがスクリーンから伝わるといいなと思います。

司会:小林監督は『春との旅』に続き、仲代さんとの再タッグですが、もう一度組もうと考えたのはなぜですか?

小林監督:『春との旅』が公開したころ、また次も企画を考えてくれと言われまして、仲代さんは大先生ですから、こんなことがあっていいのかなと思いました。ですからこちらも勝負するつもりで、本を書いて送ったんですけれど、断ってくるんじゃないかとずっと思ってたんですが、三日目くらいに電話があって、やると聞いときはびっくりしました。

司会:仲代さんが、出演を決めた決定的な要因は何でしょうか?

仲代:私は80歳になりまして、役者を60年間やってきました。小林正樹監督が『黒い河』という映画で抜擢してくださってその後『人間の條件』や『切腹』などで、私を育ててくれた育ての親なんですけれども、80歳を過ぎたこのおいぼれを、もう誰も拾ってくれないかなと思っていましたが、同じ小林が拾ってくれたんですね。
監督と役者って相性というものがありまして、どんな名監督でも名優でも、相性が合わないと上手くいかないもんです。役者は買われる身ですから、なるたけ監督の個性にあわせて一生懸命やりたいと思いますけど、今回はあまり打ち合わせをしなかったですね。テストかなと思ったら本番が回っていたり…そんな撮影でした。ですから、みなさんこういう映画も日本にはあるんだと、今日観てもしお好みであれば周りの方を誘ってぜひまた観てください。

司会:マスコミ試写会では北村さんの熱演が話題になったんですが、演じるにあたってはどんなお気持ちだったのでしょうか?

北村:今回は構えることもなく素直に作品に入っていけました。技術や腕の見せ方ではなく、素の自分でやってみようと、それだけでしたね。

司会:寺島さんの役は、非常に切ない役柄だったと思います。演じてみていかがでしたでしょうか?

寺島:演じているというよりも、カメラがどこにあったかわからなくて(笑)。カメラが遠いところにありましたし、仲代さんはずっと背を向けていらっしゃったし、ずっと仲代さんは後ろ姿なんだなーと、思いながら芝居をしていました(笑)。その世界にポンと入っていって、いつのまにか撮られているという状況は、役者にとってすごく幸せなことです。長回しも自然に感情が盛り上がるので、仲代さんが仰ったように相性ということであれば、監督のやり方はありがたかったです。

司会:最後にこれから映画をご覧になる皆さんに一言お願いします

大森:テストなのか本番なのか、わからない。そういう自然な雰囲気での撮影がとてもよかったです。

寺島:台本を読んだときに、自分の身近な人がふっといなくなってしまったら、と考えましたし、日々良い一日だったと言える一日を過ごさなければいけないなと思いました。今日は本当にありがとうございました。

北村:僕個人の感想ですが・・。こういう映画は必要だなと思います。こういう映画を撮るために、僕たち俳優はいるわけですし、商品性の高い作品もありますが、『日本の悲劇』は、本当に作品とした作品で、これに出演できたことを誇りに思います。ぜひ観た方にも同じような気持ちになっていただければ、そして、自分の中で何か照らし合わせられるところもあると思うので、この映画を観て心にしまっておいていただければ幸いです。自信を持って良いと言える作品なのでぜひみなさんも楽しんで観てください。

小林監督:映画ですから、楽しんで観てください。観たあとに、5分くらいは、これでいいのかな、と考える時間を持っていただけたらありがたいです。