「ナカメキノ」vol.6『東京物語』イベント、小津安二郎生誕110年記念 世界的名作『東京物語』をスクリーンで無料上映!斎藤工もサプライズゲストで登場(1/2)
映画と中目黒をもっと好きになっていただくために生まれた、無料の映画&トークイベント「ナカメキノ」。“中目黒の街”を舞台に、月に1度、素敵なゲストをお招きして無料の映画&トークイベントを実施、映画と中目黒をより楽しく体験いただける場を提供しています。
第6回となった7月7日(日)には、本年、巨匠・小津安二郎生誕110年にあたり発売される、彼の代表作『東京物語』のニューデジタルリマスターブルーレイ&DVD発売を記念し、ベルリン映画祭で海外初上映された4Kスキャニングによるデジタル修復を施したニューデジタルリマスター版を上映いたしました。本作は世界中の映画人たちが世界中の映画の中から最も優れた作品を選ぶイギリスのSight&Sound誌恒例のオールタイムベストにおいて、2012年、映画批評家によるランキング3位、監督によるランキングで見事1位に輝いた名作中の名作です。今回、その名作を東京・中目黒でご堪能いただけるまたとない機会に、会場は満員御礼に。『東京物語』の世界を堪能していました。
<「ナカメキノ」vol.6『東京物語』>
★イベント概要
日時 :7月7日(日)
場所 :バンタンゲームアカデミー
ゲスト:松居大悟監督、松崎健夫(映画文筆家)、中井圭(映画解説者)
※斎藤工(上映前トークショーのみサプライズゲストで登場)
《上映前トーク》
中井:暑い中たくさんの方にお集まりいただきありがとうございます。
松居:こんにちは、映画監督などやっております松居大悟と言います。よろしくお願いします。
中井:今日はみなさん、スペシャルゲストが駆けつけてくれました。僕の盟友・斎藤工さんです。(会場歓声)
松崎:空気変わりましたね〜(笑)
斎藤:初めまして、俳優の斎藤工です。実は仕事中でして、夜のシーンまでの中空きでやって来ました。ナカメキノに来れて嬉しいです。よろしくお願いします。
中井:皆さんに質問なのですが、『東京物語』観たことがある人はどのくらいいらっしゃいますか?(会場:約3割)小津安二郎を知らない人はどのくらい?(少数:20〜22歳)
斎藤:大丈夫ですよ。小津を知らないまま映画監督になってしまった三池崇監督という方もいらっしゃいますしね。「オズの魔法使い」と間違えていたらしいです(笑)。
中井:皆さんにとって“小津”の印象は?
松崎:僕が観た頃はもちろん亡くなっていて、巨匠のひとりだったんですが、黒澤明監督に比べるとその頃は評価が低かった印象がありますね。でも昨年イギリスのSight&Sound誌のオールタイムベストで、世界の映画監督によるランキング1位になって。『七人の侍』より上なんだと。時代を経るごとに評価が高くなっている印象がありますね。
松居:初めて観たのは大学生でした。演劇サークルだったんですが、その頃から映画を観始めたので、当時はあまり知りませんでした。「昔の映画を観てる俺かっこいい」そのために観た感じですね。小津と言っていればカッコイイという感じで。なので今日また観るのが楽しみでやって来ました。初めて観たときは「自分にも分かるだろうか」と緊張してました。今日はそういうことではなく純粋にみれたらいいな、と思います。
斎藤:僕は小2くらいで観ました。父親が映画製作をする人間だったので、映画教育というか、父親が自分が観たいものを観る家庭だったんです。うちでは小津安二郎と宮崎駿が同じくらいの位置なんですよ。自分のベスト1は小津監督の『お早よう』で、これは子供がおならを競い合う映画なんですが、子供にとって日本映画って難しいじゃないですが、台詞をよく聞いて、物語を追うというのは。でも小津監督の映画は読みやすい本を読む感覚なんですよ。観た人がその世界観にすっと入っていけるんですよね。言葉も少なくて。世界中で評価されるのも、感覚的に分かる映画だからじゃないかな、と思います。
中井:『東京物語』はよく言われるのは画面の異質感ですね。初めて観た時は、技術的なことは分からないけれど、これまでに観ていた映画とは違う、何かが違うと心に残っていた印象がありますね。ちょこちょこ観直して、気が付くと好きになっていた、という感じです。
松崎:僕はスノッブな小学生だったので(笑)、「なんでそんなに名作って言われるんだ?」と思っていました。でも30超えて観たときにやっと本当の意味がわかり始めた感じです。手法によって世界的名作と言われているかというとそれは違うんですよ。60年も前の作品なのに、極めて普遍的で、自分のことに振り返れる、それが魅力なんじゃないかなと思いますね。
松居:僕はドラえもんを見ているような小学生でしたよ(笑)。大学生のときも、よくわからないけれど表面的に観ていて、友達と会話がかみ合わなくても、ただ観てる自分=オシャレだと思っていたんですよ。最近『東京家族』を観てぐっとこみ上げるものがあって、また『東京物語』を観直したんですよね。すると台詞の裏の部分をすごく読むようになってました。映像も素敵だけど、それぞれの心情を考えれば考えるほど、観れば観るほど好きになるし、それでもまだまだ底知れないんですよね。
斎藤:死なない映画ですよね。終わっていない。時代とともに対応していく映画ですよね。歴史があるものって同時に未来もある。そういう古典って少ないんじゃないかな。小さい頃に観たけれど、僕ももちろん「東映アニメ祭り」や「闘将!!拉麺男(たたかえ!!ラーメンマン)」の方が好きでしたよ。これから観る皆さんにとって、世界で評価されているという情報も要らないかなと思いますね。シンプルにふらっと観るのが正しいかな。ローポジションが有名ですが、(床に座っている)みなさんの目線から観るとすごく感じるかもですね。「男はつらいよ」シリーズなんかでも、日本家屋独特の、敷居の向こう側と手前、など色々と意味があるんですよね。暗黙のルールの中で当たり前のように生きている人たちって新鮮だなと。羨ましい時代の人たちを描いているなぁと思いますね。
中井:今観ても「ああわかる」というものを5〜60年前に創っていて、言語も文化も違う映画人・映画ファンに訴求していてすごいですよね。そこにあるものは何なのか。小学校くらいじゃわからないけれど、今日いらっしゃっている(10代後半以降の)皆さんの年代になると、こめられている気持ちなどなど、わかると思います。2013年という、家庭のあり方がある程度固まりつつある今日だけど、「あ、これ俺のことかも知れない」とはっとするところがあると思います。それを1950年代に描いてるって本当にすごいです。
松崎:今観ると古いかもしれませんが、公開されている当時は新しいことを描いていて、今からの日本ってこうなりつつあると予言していたのかと思えるくらいなんです。すごく重要な道徳心に基づくようなことは描かないで、一見どうでも良いようなあの時代を象徴するものをたくさん描いていて、その上で自分の手法は守っているんですよね。
松居:ローポジションが生まれたのも、照明を動かすとコードが映ってしまうから、という説もありますし。独特の手法も、面白いものをつくっていこうという想いのなかから生まれてて、僕らと同じ感覚の延長線にあったものなんですよね。決して遠い世界のものとか、遠い世界の人じゃないと思うんですよ。
斎藤:松崎さんが『サニー 永遠の仲間たち』の野外上映について、「みんなで寒さをしのぎながら映画を共有した記憶として残ってるよ」とおっしゃってて、まさにそれが映画の醍醐味だと思いますよ。北大路欣也さんが「仁義なき」シリーズとの出会いの話をしてくれたんですが、深作監督とは『狼と豚と人間』で一緒で、『仁義なき戦い』パート1を古びた沖縄の映画館で観て、そこの空間と作品がばっちり合っちゃって、とんでもない経験をしたそうなんです。すぐに監督に「続編がでたら絶対出してくれ」と電話したそうです。誰かと共有するというのが映画の醍醐味だと思います。なんで、今日いらっしゃっている素敵な皆さんと『東京物語』と相性というか、必然性を感じますね。シンプルに今日の空間を楽しんでくれたら、一番小津さんが喜んでくれるかなと思います。
中井:今日上映するのは“ニューデジタルリマスター版”ですが、先に観せてもらったら、めちゃめちゃ良くなっているんですよね。昔観ていたものよりもずっとディテールが分かりますし、声も聞きやすい。前回は『スクール・オブ・ロック』で今回は『東京物語』というふり幅もナカメキノならでは。どちらも良い映画だから観てほしい、その1点のみなんですよね。これだけのスクリーンサイズで観るチャンスってなかなかないと思うので、ぜひ楽しんでください。
松崎:“ニューデジタルリマスター版”を大きな画面で上映するのは日本で始めてだそうですよ。目線が合わないのに会話が成り立っている、一見変なシーンに見えるかもしれないけれど、日本人って右利きが多いから、右に寄せた目線にすれば違和感なくて気持ち良いんですよね。
斎藤:そうやって映画観てるって気持ち悪いですよー(笑)
松居:僕は単純に観ます(笑)
斎藤:『闘えラーメンマン』もぜひリマスター版をお願いしたいですね(笑)。話は全部忘れて観てください。終わった後に解説をすると思うので、この空間を存分に楽しんでください。
中井:それから、今作の画面はスタンダードサイズです。普段観ることがなかなかないと思うので、新鮮に感じると思います。時代を超える強さ、本物を感じてほしいです。