映画『ベルリンファイル』新宿LEFKADAにて、リュ・スンワン監督がトークイベントに登壇
18日(火)には、新宿LEFKADAにて、リュ・スンワン監督がトークイベントに登壇、ジャーナリストの黒井文太郎氏、木村元彦氏をゲストに迎え、すでに日本でも軍事評論家や作家など各界著名人や知識人の方々から絶賛されている本作の魅力や、作品の背景として描かれている国際情勢を含めた様々なトークを展開した。
6月18日(火) 『ベルリンファイル』公開記念トークイベント@新宿LEFKADA
登壇:リュ・スンワン監督、
黒井文太郎氏(ジャーナリスト/元『ワールドインテリジェンス』編集長)、木村元彦氏(ジャーナリスト)
まず、『ベルリンファイル』を観た感想について、「本作が圧倒的に面白いのは、バランスが見事であり、背景がしっかりしているリアリティの2点が優れているからだと思います(黒井氏)」、「北朝鮮の人を描いた作品は他にもありますが、とても偏った描き方をする作品がある中で、本作はむしろ北朝鮮のカップルが主人公と言ってもいい、そこにとても意義があると思います(木村氏)」という言葉を受け、リュ・スンワン監督は「北朝鮮の人物描写については、どうバランスをとったらいいのかとても苦心しました。韓国で北朝鮮の人物を非常に人間的に描写し始めたきっかけとなったのは恐らく映画『JSA』からだったと思います。私はどんな体制であっても、そこに生きている人には熱い血が流れていて、人間としての感情を持っている人たちだと思っているので、北朝鮮の人を主人公にした時も、私たちと同じ熱い感情を持っている人間として描写するよう努めました。しかし、今回の主人公は一生をかけてずっと訓練を受けてきた結果としての人物で、自分の信念を貫くために感情表現が苦手な人物として登場しています。この映画を作りたいと思った理由の1つは、今は冷戦が終わった後の時代ですが、依然として冷戦のイデオロギーの中で生きている人がいるということを考えてみたいと思ったからです。」と作品に込めた思いを語った。
さらに、現実を先行しているともいわれるストーリーラインについては、黒井氏より「実際に、金正恩体制になってから一番大きい動きは軍部の中での粛清が非常に厳しいということ。金正日が亡くなった時に霊柩車に付き添っていた8人のトップは、全てその座から去ったというくらい、軍の中での綱引きが激しい状況です。北朝鮮で起こっていることはトップから下まで全てサバイバルなんです。上から下までいかにして生き延びるかという状況で、止むおえなくサバイバルの為にやっているという状況なんだと思います。」と指摘し、取材と調査を重ねてこのシナリオを作り出した監督の手腕を絶賛した。
さらに、劇中、北朝鮮諜報員に扮するハ・ジョンウと、韓国情報員要員役のハン・ソッキュ、陰謀にかかわる北朝鮮保安監査員役のリュ・スンボムの熱演も見どころの一つだが、「ハ・ジョンウは気持ちを緩めて演技をする俳優で、リュ・スンボムは自分を追い込むタイプ。現場で役になりきる集中力がもの凄い。二人を見ると、火と水を見ているようでした。」と、韓国を代表する俳優陣との撮影を楽しんだ様子も垣間見られた。
また今回ハン・ソッキュを起用したことについて監督は、「台本を書いている時は『シュリ』でのハン・ソッキュは意識していなかった。その後に、ハン・ソッキュ氏の出演が決定してから、もう一度ディテールを書き直しましたが、その過程で、この作品は『シュリ』の10年後を描いたものになり得ると思いました。『シュリ』であのような事件があって、その登場人物の10年後を描いたという見方もあるかと。『シュリ』では、愛する女性がスパイだったと情報員が知るわけですが、その情報員の後日談として、彼が海外へ派遣され、あちこちと彷徨っている中で、過去の自分と似たような北の人と会うという流れもあるのではないかと思いました。」と語るなど、興味深い話も披露され、本作への熱い思い入れを感じさせるトークイベントとなった。