6/11(土)より公開になりました映画『さや侍』。この度大ヒットを記念し、松本人志監督によるティーチイン付試写会が開催されました。
約600人の観客の中には名古屋や東北など遠方から来場した方もおり、作品についての質問から松本監督の人となりに迫る質問まで多くの疑問が飛び交いました。松本監督も観客の質問にひとつひとつ真摯に答え、「こんなティーチインをもっと早くやるべきだった」と言うほど力のこもったトークイベントとなりました。
また、トークイベントの最後には主演を務めた野見隆明さん、熊田聖亜さんも登場、大歓声に迎えられた野見さんが緊張のあまり挨拶に詰まる場面もあり、松本監督がツッコミを入れ大爆笑となる一幕もありました。

【日時】 6月18日(土) 
【会場】 丸の内ピカデリー (千代田区有楽町2-5-1)
【登壇ゲスト】 松本人志監督   司会進行:倉本美津留(脚本協力)

——以前「放送室」というラジオ番組の中で「死ぬ」ということに対して、あまり怖くない、執着していないとおっしゃっていましたが、娘さんが生まれたことでその考えに変化はありましたか?
松本監督:家族は配役が決まっていると思っているんです。今は娘がいるけど、この娘は実は自分の大好きだった祖父だったかもしれない。たまたま今は僕が父親をやっているというだけで、僕が死んだら今度はまた違う出会い方をするんじゃないかと思うんです。
倉本さん:またどこかで会えるという感覚ですか?
松本監督:そうですね、そう思うと死への恐怖とか寂しさが和らぐというか。

——お子さんが生まれてから作品の印象が変わったように感じました。ご家族には観ていただきたいですか?
松本監督:母親からは「立て続けに3回観たというメールがきました(笑)
ただ、基本的には「〜に捧ぐ」みたいなものは好きじゃないんです。それは個人的にすればいいことだと思うので。だから、娘に絶対に観て欲しい、とかいうことはないですね。

——娘・たえの役柄は元々は男の子だとインタビューで拝見しました。父になったことで構想に変化は?
松本監督:女の子にしたことで、予定よりも涙が多めになったかもしれませんね。
倉本さん:映画を初めて作るというときに、一番最初に松本さんが言っていたのが、「映画は5本作りたい、毎回ベクトルの違うものにしたい」ということでした。これがそうですよね。
松本監督:今まで3本作って、よく言われるのが、1回観たときよりも2回目のほうが良くなると言われるんですよね。『さや侍』もそうで、(主役の)野見さんの感情も、回数を重ねた方がすごく理解できるようになってくる。河原のシーンもそうです。僕なんか、編集で何度も観ているのに、その度に毎回泣いていましたから。それくらい、何度観ても新しい感情が出てくる作品だと思っています。ただ、映画を作るからには毎回違うものをと思っているので、何年かしたら超ブラックな作品を撮るかもしれないですけど(笑)

——松本さんの作品は、コントでも映画でも、奇抜さと笑いが紙一重だと思います。そこで浜田さんがいるということはやはり大きいと思いますが。
松本監督:僕は、“ツッコミ”は警察だと思っているんです。警察って、何かを止めたり規制したりする役ですよね。だから、こんなこと言うのもなんですが、受け手の笑いのレベルが高ければ、ツッコミなんていらないんです。
倉本さん:今までの過去作も、観客がつっこんでくれれば、すごく成立しやすい作品でしたよね。
松本監督:そういう風に作っているから、わかりにくいとか言われるんですよね。だから、そういう意味ではダウンタウンも浜田がいたから成立しているし、売れたんだと思ってます。
倉本さん:だから松本さんの映画作品は、観客がツッコミの役割を果たすからこそ、何度も違うところにツッコミを入れられるし、観るたびにおもしろくなるのかもしれませんよね。

——元・野狐禅の竹原さんを起用されたのはなぜ?
松本監督:僕は昔から竹原くんが好きだったんですが、竹原くんに限らず才能があるのになかなか世間に認められないっていうのがすごく残念で…
倉本さん:今度ロカルノ映画祭に出品が決まっていますが、映画祭に呼んでくださった方も同じような歯がゆさがあったのかもしれないですね。こんなに奇抜な作品を撮る人間をもっと世に知らしめたいという。
松本監督:今度『大日本人』がハリウッドでリメイクされるんですが、そのニュースに浮かれていると思われるかもしれませんけど、全然違います。あの主人公の「大佐藤」という人間は日本のために頑張っているのに、誰にも認めてもらえない。もうダメだ、となったときに助けにくるのが「スーパージャスティス」というアメリカ人なんですよね。実はそのキャラクターにすごくハリウッド映画に対する皮肉を込めたつもりだったんですが、まさかそのハリウッドからオファーがくるとは…笑
そのとき自己紹介で「私はこの国を守る者だ!」と名乗るシーンがあるんですが、あれは本当に「松本人志」の絶叫でもあるんです。

——次回作についての構想はありますか?
松本監督:毎回、新作の打ち合わせという名の会議の席につくまで何も考えてないんです。からっぽです。だから次の作品についてもまだ真っ白ですね。