函館をモデルとした“海炭市”を舞台に、それぞれ事情を抱えて生きる人々の姿を優しく包み込むように描きだした映画『海炭市叙景』(かいたんしじょけい)。

原作は、村上春樹らと並び評されながら、20年前に自ら命を絶った不遇の小説家・佐藤泰志の連作短編小説。亡くなる直前の2年余りをかけて執筆し、36篇を書く構想であったが、未完に終わった作品であり、映画化をきっかけに、今年10月6日、小学館より文庫本が刊行され、予想を超える売れ行きで重版を重ねるなど、再評価の動きが高まっています。

そんな原作への注目が高まるなか、11月13日(土)に、原作者・佐藤泰志の出身大学である國學院大學にて、特別試写会が行われました。

試写会には、佐藤泰志が所属した文学部の学生をはじめ、法学部、経済学部など幅広い学部の学生たちが参加。上映前に、在学中の佐藤泰志と交流のあった瀬戸口宣司文学部兼任講師による、佐藤泰志ついての解説が行われ、試写会後には、10名の学生による、『海炭市叙景』について話し合う座談会が開かれました。

座談会では、「父が佐藤泰志と同じ歳、佐藤泰志の長男と自分が同じ歳。自分の父が生きた世界と、息子である僕たちの世代のものの見方の違いを感じた。あたりまえの見方を崩してくれた。」、「バブルの時代でも、哀愁、物悲しさがあったんだということを感じた。」という学生世代ならではの意見が聞かれると同時に、「海炭市叙景で描いている人々の悩みや生きにくさは、佐藤泰志の時代であろうが現代であろうが、変わらない。」という意見に多数が賛同しました。

映画については、「暗い映画だが、観ることで得られる、何かしらの想いが希望につながっていて、それが伝わってきた。」、「これほど人生の行き詰まりを描いた作品に久々に出会った感じです。ですが、同時に登場人物に寄り添うような温かさ、優しさを感じました。」などの感想のほか、「ジム・オルークの音 楽が素晴らしい。」「日常の音を大切にしている。溶接の音。バスの中のへたくそな英語アナウンスなど。」「生活音が印象的。トキばあさんの糠漬けを切ってる音を聞いて、家の中に充満する糠床の匂いを感じるよう。」など、音に関する意見がいくつも挙げられたことも興味深い点でした。

就職を控え、将来自分の家庭を築き、これからを生きていく学生たちにとって、この映画で描かれていることは決して、ひと昔前の小説の、遠いどこかの町の出来事ではなく、今の自分たちにつながる物語として受け止められたのではないでしょうか。