9月18日から公開する映画、『ANPO』の公開に先駆け、8月10日、六本木の森美術館にて、森美術館のトーク、ディスカッション、スクリーニングのプログラム「アージェント・トーク」の一環として、特別上映とトークショーを行いました。

前半では、本作で取り上げられている石内さん、中村さんの作品の話からリンダ監督が映画『ANPO』を作ろうと思ったきっかけ、後半では米軍基地問題まで話題が及び、改めて今の日本を問い直す内容に、観客は終始真剣に耳を傾けていました。

森美術館『ANPO』公開記念トークショー
日時:8月10日(火)
会場:森美術館内、REBIRTH PROJECTが手がけたネイチャー・ブックラウンジ

ゲスト:
リンダ・ホーグランド(『ANPO』監督)
石内都さん(写真家)
中村宏さん(画家)
司会:
土屋隆英さん(森美術館 シニア・コーディネーター)

●『ANPO』製作のきっかけ

リンダ:私は安保を全く知らなくて、映画を通して安保について知ったんです。
今村昌平の『豚と軍艦』とか黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』とか。
だから私にとって入り口はアートで、一体何があったんだろうという発想が先なんですよ。
あと、日曜美術館で中村宏さんの作品『砂川五番』を見て、文字通り布団から飛び起きて回顧展を観に行ったんです。こんなすばらしい絵を当時の日本のアーティストが描いていたことに驚いたんです。
同じく濱谷浩さんの写真に見る日本人の顔、希望と怒りと絶望を見て、素直にアートから入っていった。
アートを使ってやろうというのではなく、もっと純粋にアートがきっかけになった。
ある種の偶然というより大きなクエスチョンマークがあったから、作品を通してそのわからなかったものがパズルが合わさるように見えてきた、それがこの映画を撮ったきっかけです。

●中村さんの語るリンダ監督

中村:リンダ監督がNYから電話してきて、「安保には負けたけど、表現の世界では勝ってるじゃん!」って言われた。
あれには感動したなぁ。リンダさんはアメリカ人なのに、なんで自分の絵画を見て、表現では勝ってるなんていうのかと。
おじいさんだからおだてられると喜んじゃうよ(笑)
リンダ:絶対に売れないけど、「描き続けた」っていうの自体が、英雄ですよ!
中村:(笑)ほめすぎだよ!

●前日まで沖縄に滞在していた石内さんの話

石内:昨日まで沖縄にいて面白い意見があったんだけど、ある人が「投票をして、一番票数が多いところに米軍の基地を作ろう」というのがあった。
それは基地の70%がある沖縄ならではの発想だと思う。
だって他の地域の人はみんな基地のこと、そこまでリアルに考えてないもの。
みんな”安保”っていう事実を知らない。現実的な痛みとか、そんなものは知らないですよ。
この『ANPO』は、日本人に向けて作られた映画だと思う。
アメリカ人の彼女がこんな作品を作ったのに、安保50年だからって、日本人は何も作っていないんだから。

●監督からのメッセージ

リンダ:私も最初は安保のことはなにも知らなかった。
ただアーティストのみなさんが残したヒントを拾っていったら、こういうことを発見したということだけです。
映画の最後にある石内さんの「傷ついたままじゃいやだった」という言葉は、いろんなアートの始まりでもあるし、セラピーの始まりでもあると思います。
「このままじゃいやだ」「なにかおかしい」という気持ち、そこからなにか扉が開く可能性が現れるという意味で、この石内さんの言葉で映画を終わらせていただきました。

『ANPO』は答えを出している映画ではないんです。
どちらかといえば、私も含め、どんな未来に行きたいのかということを伝えたかった。
この映画を作っている最初の頃は、過去を描写して(60年安保の熱気を)蘇らせるつもりでした。
けれど製作を進めているうちに、政権交代が終わってしまったこともあり、
果たして残された時間をこの地球でどう過ごしたいのかというところに気持ちがどんどん向かいました。
ですので『ANPO』を観ることは、若い人と一緒にその問題を考える、いちばんいい時間の過ごし方だと思っています。