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映画館大賞2010
全国の映画館スタッフが選ぶ、2009年にスクリーンで最も輝いた映画

全国の独立系の映画館150館の投票によりベストテンを決める「映画館大賞2010」の特集上映が行われ、4月22日(木)にシネマヴェーラ渋谷にて、特別部門の「あの人の1本」で阪本順治監督が選定した『ポチの告白』が上映されました。

警察内部の腐敗を強烈に描いた骨太な作品ということもあり、場内には男性客が多数を占める中、『KT』『亡国のイージス』『闇の子供たち』など社会派の作品で人気の高い阪本順治監督とまさに、男の世界から飛び出してきたような高橋玄監督が登壇し、映画談義を繰り広げました。様々なスタイルで映画を撮る監督がいるなか、社会の闇の問題に映画の力で切り込んでいくという共通の考え方をもつお二人の対談ということで、場内からも大きなうなずきや時折笑いも起こる、大人のトークとなりました。

──選定の理由について
阪本順治監督 「社会性を帯びていたり、反権力であることを表現する場合、ドキュメンタリーではないので劇映画として何ができるかという技術が問われると思うんです。作り手の思想に頼って志が高いだけで突っ走るとお客さんがついていけないんですが、僕は、この映画を菅田俊さんのスター映画として観ました。志が高くても劇映画として挑戦する力がないと駄目だと思っていたので、この映画は楽しめました。」
高橋玄監督 「阪本監督のことを遠巻きにしつつ、すごい方だなと思っていたので、まさか選んでいただけるとは! 感激です。阪本先輩のことは、アプローチや考え方が似ているのではないかと思っていたので、嬉しいです。菅田さんは脇役だと目立つので、この人とやる時は、完全主役だと思ってとっておきました。この作品と撮ると決めてから、あて書きをしました。この映画を撮った後、これは嘘でしょ? という問いが来るんですが、元警察の人が全て本当ですと言うから、皆さん黙るしかなかったみたいですね。」
阪本順治監督 「僕が映画監督になるきっかけをつくってくれたおじさんが、大阪府警の警察官なので、ちょっと複雑な思いがしました」

──社会派作品を撮ることで、危険な目に遭ったなどなにか影響はあるのでしょうか・・・
高橋玄監督 「いや、特にありませんでしたねえ。危ないのは債権者に追われることくらいですかね(笑)。自主規制ということで上映をとりやめた劇場はありましたけど・・・」
阪本順治監督 「僕は『KT』を撮った時は、尾行されていましたね。ほか弁を買いに行っている時にも後ろにずっといました(笑)。それまで劇映画を監督してきていたので、そういうことには慣れていませんでしたね。」
高橋玄監督 「日本でこういう映画を撮ったので、なるべくなら(一緒に)やりたくないと思われているのか、外国からのオファーが多いですね。」
阪本順治監督 「『闇の子供たち』を撮った時には、全国のNGOの方から声がかかりました。でも僕は活動家ではないし、映画を通じてものを言える立場です。オファーを受け

てにわか勉強でやったので、運動を応援できるか、与する自信はないと答えました。ドキュメンタリーでやったらどうですか? とも言われましたが、一人の女の子の人生の一部をONで撮ることはできない。劇映画だからできることに自信をもってやっていきたいと思います。」
高橋玄監督 「高知での上映では、高知県警に連絡がいって、用もないのにパトカーがぐるぐる回っていました。映画って社会問題よりも、タブーを観たいというのもあると思うんです。劇映画というスタイルでできること、向かえるものはあるかなと考えています。そういうことには地方の方のほうが鋭敏で、映画館も映写に命をかけている人がいて、映写もすごく良かったですね」

ここでしか聞けない話がまだまだ出てきそうな勢いだっただけに、時間の制限が残念でした。『ポチの告白』は、まだまだ日本のいろいろな劇場で上映される機会があると思いますが、ぜひチェックしてほしい作品です。

映画館大賞:特別部門

■「あの人の1本」 3名の著名人(阪本順治監督、中谷美紀さん、竹中直人さん)が選ぶ、2009年に最も印象に残った1本。阪本順治監督の『ポチの告白』選定時のコメントは下記の通りです。 
骨もあり、
肉もあり、
意志もある。
声もあり、
匂いあり、
姿(菅田)あり!

主催/映画館大賞実行委員会