長年にわたり演劇に関わってきたマイケル・マッケンジー監督の、長編2作目。
本編上映後、「まず、作品を招待してくださった映画祭に感謝しております。製作チーム全員からの感謝と共に、脚本家、プロデューサーと私自身感謝の気持ちで一杯です」と観客に一言述べた後に、作品について「モントリオールは私が住んでいる街で、様々な民族やコミュニティが共存しているとても美しい街です。紛争や民族間の抗争とは無縁の平和なモントリオールで、遠いベイルートやイスラエルで起こった事件が緊張を起こしている、ということを本作に反映させたかった」と想いを語った。

ストーリーは、モントリオールに住むシャイなユダヤ人のアダムが、ある日学校の反戦デモで美しくて情熱的なレバノン人のヤスミンに出会うところから始まる。静かに愛を育む二人だったが、彼らの前には、お互いの宗教の問題だけでない様々な困難が待ち受けているのだった。対立する宗教と家族—立ちはだかるいくつもの壁を二人は乗り越えられるのか。

Q: 紛争が無い平和、人の精神における平和を感じさせる作品となっていると思いますが、本作の製作についてお聞かせください。

A: 勿論、紛争の影響を描いてはいますが、異文化間・他民族間で問題を解決できる、和解できるといった、あまりにも単純で楽観的な見方を持たせたくありませんでした。
現に起こっている複雑な状況を考えるとそれは現実的に不可能だからです。それでも、単純な楽天主義にしない一方少しの希望も持たせたかった。根本的な“解決”にはならなくとも、例えば2人の憎み合っていた異民族の男性が、一方を車で送ってあげる、という行為だけでも重要で意味のあることなのです。
アダムは、冒頭であった両親を亡くした事実を、フラッシュバックによりだんだん理解していきます。ヤスミンを通して、両親を失ったトラウマからアダムが徐々に立ち直り、地に足が着いていくプロセスを描きたかったのです。

Q: ケベックでの製作についてですが、もっと多くフランス語が使われていると予想していたのですが、イディッシュ語等を除くと英語が主なので驚きましたが?

A: とても良い質問ですね。ケベック州の言語政策は複雑なので全てはお話できませんが、ケベックは人々が主にフランス語を話す地域ですが、だからといってこの映画に、リアリティが無いかといえばそうではありません。当時資金集めをしていた際、英語でこういった映画を作りたいと伝えたとき、ケベック州のある映画助成団体が非常に共感してくれ、カナダ政府からは協賛頂けなかった中、多くの助成をしてくれました。
この英語の映画は是非ともケベックで作られるべきだ、と推していただき、結果的に製作費のほとんどをケベック州の助成金で賄うことができました。
その代わり、出演者及びスタッフは、ケベック州在住者でなければならず、実際ヤスミン役のフラヴィア・ベシャラ以外は全員ケベック在住です。そのためキャスティングは一番大変でした。ただケベック州内でも、カナダ国内でも興業的には成功したのいえるので、結果に満足しています。

Q: 現実的に(アダムとヤスミンは)良い関係だな、だと感じました。以前、毎日新聞に、カナダの有力紙が行ったリサーチについて掲載されていました。90%のカナダ人が自国は良い国と答えた、というものでしたが、監督はそういった実感はありますか。また異なる民族の人たちにとっても良い国だと思いますか。

A: 私自身もその90%の人たちと同意見で、カナダ特にケベックに住んでいてとても幸せに感じています。カナダは日本と正反対で、全人口が東京の人口と同じくらいで、世界的にも国土が広いため人口密度も全く異なります。幅広いスペクトラム、多様な民族、日常的に二つの言語を使い、私にとっては非常に刺激的です。
あ、ただスゴク寒いですけどね(笑)

質問の挙手が止まぬ中、時間切れのためQ&Aは終了。
観客の質問に対し終始丁寧に回答し、感謝の気持ちを全面に表す監督に対し客席から惜しみない拍手が湧き起こった。

(Report:Inoue Midori)