柳楽優哉が最年少でカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞した『誰も知らない』の是枝裕和監督が、先月より新作『歩いても 歩いても』をクランクインさせている。

お盆の季節に老夫婦の家に集まった家族たちが再会する夏の2日間を描く今作では、長男を失った事実を抱え日々を送る家族が抱える感情をさりげなく表現しながら、これまでの是枝作品の中でもっとも日常生活に近い視線の物語が展開していく。

東宝スタジオで行われた製作発表会見では、主人公でありいつも出遅れてばかりの不器用な次男役の阿部寛、その妻役の夏川結衣、子役の田中祥平、長女役のYOU、その夫役の高橋和也、一家の母役の樹木希林、父親役の原田芳雄、そして是枝裕和監督が登壇し、撮影の合間を抜け出してきた感じが劇中の衣裳のままの姿からよく現れていた。

3行以上のセリフを書かかないということをルールとしたというシナリオは、キャストからの評判もよいが、日常会話だけに演じる側の力量が試されるという点で、みな口を揃えて難しさを語る。

阿部寛
「これまでに色んな役を演じてきているが、自分の普段のしゃべり方に一番近い。監督がそういう風に台本を合わせてくれたのかもしれません。素の自分と一番似ている役なので演じてて新鮮です。」
夏川結衣
「わたしは嫁の役でみんなに気を使ってばかりの役。自分にまったく近くない役なので、阿部さんとは逆の意味で新鮮に楽しんで演じています。」
原田芳雄
「登場人物たちはみな、不安定要素を抱えている。私は家長でありながらみんなのことを何一つわかっていないということを知って、家族を含めて自分自身のことも見直す役です。まあ、わかったようなことを今話していますが、実際出来あがったものはどうなるかさっぱりわからないで撮影してます。いい意味で裏切られることを期待してます。」
高橋和也
「日常会話で普通のやりとりを切り取っているんですが、でもみんなどこか少しずつイタみをもっていることがさりげなく描かれているんです。それを演技で見せていくのが本当に難しい。そこにただ存在することの難しさを感じています。実際はマスオさん的な役柄なのですごく明るいんですけど。ちょっと内部分裂気味です(笑)。」
YOU
「セリフ覚えるのが苦手で、監督に唯一「もうちょっとだから、がんばって!」と言われてしまいました。ええと、映画については“地味な話”だなって思いました(笑)。」
樹木希林
「力のあるいいホンだと思います。小津さんの最後の作品の現場を見たことがあってその話をYOUさんにしたら、「私には二宮金次郎の銅像みたいな話だな」っておっしゃったんですが、是枝監督は後々銅像になるタイプの監督だと思います!」

キャスト一同悩んだり、楽しんだり、驚いたり、それぞれの思いを描きながら生き生きとこの作品に参加している様子がうかがえる。
是枝監督は「キャストの皆さんが、休み時間を含めて本当に家族のような時間を過ごしています。演技のアンサンブルがとてもよいので、長いシーンでは3,4分そのまま芝居を眺めてしまうほどです。」とかなり手ごたえを感じていると語った。全体の8割を撮影し、残り10日ほどでクランクアップ。公開は来年初夏。
(Report:綿野かおり)