言葉を超えて世界をつなげる傑作『バベル』来日記者会見
モロッコの少年が放った1発の銃弾が、アメリカ、メキシコ、日本それぞれに住む人間たちをつなぎ合わせていく『バベル』。ゴールデン・グローブ賞など数々の映画祭で賞賛されたこの物語が4月28日、日本公開を迎える。それに先駆け3月7日、都内で記者会見が行われた。
先日行われた米アカデミー賞では作品賞、監督賞などにノミネートされ、中でも菊池凛子が助演女優賞にノミネートされたことも重なり、日本においても『バベル』に対する注目度は極めて高い。およそ550人ものマスコミが出席したこの会見で、監督のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、日本人キャストの役所広司、菊池凛子、二階堂智が登壇し、『バベル』を語った。
「非常に深い感情の体験ができる」と『バベル』を観た人に多く言われるというイニャリトゥ監督。この『バベル』をつくったそもそもの原動力は深い思いやりなのだと話す。「それは人が忘れ去っていること。今、人間たちは何においても白黒はっきりさせたがっていて、グレーゾーンというものがなくなってしまっている。でも、人間にとってそのグレーゾーンこそが必要なものなんだ。この映画で描かれている悲劇は人間によって引き起こされたものだけど、誰も悪意なんか持っていない。善人でもなければ悪人でもない。彼らは純粋さや無知の犠牲者なんだ」
この想いから始まって構造が組み立てられていったという監督は、ストーリーの中に日本を登場させた。その理由を監督はこう語る。「2003年に来日したとき箱根にいった。そのときはすでに『バベル』のアイデアを考えていたときだった。そしたらそこで老人が障害を抱える少女を世話していたんだ。その姿は強い孤独感に包まれていた。また聾唖の若者が自分の思いを周りのみんなに必死に伝えようとしている光景もみた。群集の中における孤独感の強さも感じたんだ」
こうして日本を舞台のひとつにすることが決まった。しかし日本での撮影は困難を極めるものだったという。街を撮るのに許可がおりない。しかたなくゲリラ撮影を敢行。高速道路では朝7時にスタッフで渋滞を作り、20分後には警察に追われたりという撮影を繰り返した。そういった撮影を振り返った役所広司は「監督の情熱が伝わってきて、この映画のために頑張ろうっていう気になれましたね」と話し、二階堂智も「現場の空気の作り方がアーティスティックで、包んでくれるような監督だった」とイニャリトゥ監督を褒め称えた。
そして、アカデミー賞助演女優賞ノミネートとこの映画で一気にスターダムにのし上がった菊池凛子。アカデミー賞授賞式と同じくシャネルのドレスに身を包んだ彼女もイニャリトゥ監督、そして『バベル』を振り返った。「約1年間オーディションを受けて監督を尊敬して臨んだ現場でした。監督はとても情熱的で、言葉も美しくて、愛情がとても深い。撮影中、彼が私を信用してくれているのがわかりました。この映画の登場人物たちは許しを求めていたり、恐怖の中でも踏み出そうとしている。滑稽だけど美しさがあって、人間の本質を持っている人たちなんだと思います。不思議と恐さを捨てて、誰かを愛したくなるような、そんな映画なんです」
(林田健二)