”悲しみが彼女を美しくする”そんなキャッチコピーがついた映画『チャーミング・ガール』。釜山国際映画祭での最優秀新人作家賞をはじめ、数々の賞を受賞した本作が、遂に10月、日本で公開する。それにさきがけ監督のイ・ユンギと主演のキム・ジスが来日記者会見を行った。この日二人が語った言葉は全て、この映画のキャッチコピーに集約されるものだった。

キム・ジスが演じた主人公チョンヘには、平凡ながらもシンプルな美しさを感じる。決して外見も派手ではなく、取り立てた才能もないような女性がこれほど気品溢れてみえるのは、監督の強いこだわりが成したもの。

 キム・ジス「監督が一番気を使ったのは、顔が綺麗に見えすぎていたらどうしよう、ということでした。カメラがチョンヘをクローズアップした時のためにメイクで染みでも作っとこうかなんて話も冗談ながらですがありました(笑)。監督はチョンヘをきれいに撮ろうとしたつもりもないし、チョンヘを演じた私もきれいに写ろうとしたつもりもありません。でも、それをシンプルな美しさとして感じていただけたならありがたいです。」

 イ・ユンギ「映画の中でチョンヘは、ある面では平凡で、ある面ではかわいそうな生き方をしている女性です。でもだからといって醜いわけではない。チョンヘという女性を外見だけで表すというよりも、内面から出てくるものに気を使って描きました。」

そんなチョンヘを見事に演じたキム・ジスは、92年のデビュー以来数多くのドラマに出演してきたが、驚くことに映画出演はこの『チャーミング・ガール』が初めて。なぜ今まで映画に出演してこなかったのか、そしてなぜこの作品を初出演の作品に選んだのか、その理由を彼女は語ってくれた。
 
 キム・ジス「10年以上もの間ドラマに出続けていた中で、出演したいと思えるいい映画を探していました。でもそういう作品と今まで出会えなかっただけのことです。初めてこの映画のシナリオを読んだ時、こんなに何もない平凡な話が、果たして映画になるのだろうかと感じました。でも、チョンヘというキャラクターにとても興味をもったんです。シナリオ自体を見てこれはほんとうにいい作品で、誰からも愛される成功するような作品だということよりもまず、そのキャラクターにとても惹かれたのだと思います。」

キム・ジスの心を捉えた『チャーミング・ガール』だが、これはウ・エリョンの『チョンヘ』という小説が原作。この小説を昔に読み、本棚に大事にとっておいた監督があるきっかけで映画にしようと思ったのだそうだ。

 イ・ユンギ『昔、読んだ時すぐに映画化しようと思ったわけではありません。ある日仲のいいみんなで映画を撮ろうとした時に、『チョンヘ』のような話を最近は誰も撮らないけど撮ったらいいのにね、と話していたら、ならお前が撮ればいいじゃないか、と言われたのが一つのきっかけです。
この小説はとても大きな感動ではないかもしれないけれど、ずっと心の中に残っているような感動なんです。」

チョンヘという女性も、『チャーミング・ガール』という映画も、その原作も、全て外見の派手さや美しさよりも、内面から滲みでてくるもので構成されている。だからこそチョンヘにはシンプルな美しさを感じ、キム・ジスはこの映画を自身の初出演映画として選び、イ・ユンギ監督は『チョンヘ』という昔に読んだ小説をある日思い出したのだろう。それは、チョンヘが内に抱える大きすぎる悲しみによって美しかったことに、全て繋がっているのだ。
(林田健二)