8月21日ニューシネマワークショップにて、ゲストを招いた特別セミナーが開催された。
既存の歴史だけを追った映画ではなく、現実の日本と韓国の関係を踏まえた新しい価値観を持った映画を作りたかった、と話すキム・ソンホ監督。韓国と日本が手を取り合って作り出したオムニバス映画『まぶしい一日』に第1話目の『宝島』の監督として参加している。本日はキム・ソンホ監督、ニューシネマワークショップの卒業生でもあるスタッフの安藤大佑さん、主演を努めた杉野希妃さん、森透江さんが日韓コラボ映画が生み出した新しい“カンケイ”を探った。

キム・ソンホ監督は、「在日」の人々をテーマに映画を撮ることを最初は迷ったという。「自分にはあまりにも大きなテーマであるような気がして、僕になにができるだろうと考えました。そんな時ヤン・ヨンヒ監督の作品に関わり、チェジュ島に行き、在日の人たちの話を聞けたことで、映画を撮ろうと決意しました。」と、撮影のきっかけについて話した。

ただ撮影はインディペンデンデント映画のため、低予算で撮り終えなくてはならず、主演の女優探しは難航した。「俳優は、演技になれた人ではなく、素人っぽさの残った人を探していました。結果60名ほどの応募がありましたが、演技的に素人っぽさのある中にも、すっとストーリーに溶け込んだこの2人を起用することになりました。」と、オーディションの裏側についても話した。
だがインディペンデンデント映画でありながら、1週間滞在したチェジュ島での食事は、朝昼晩おいしいものをたらふく食べたというエピソードにも話は広がった。「スタッフ・キャストはノーギャラだったので、せめてご飯だけでもと思って、チェジュ島の町の食堂までみんなでバスで向かい、おいしいご飯を食べてもらいました。」と、優しい監督の一面を垣間見るこができた。

えいこを演じた杉野希妃さんは、「気合が入りすぎていて、絶対に落ちたと思ったのですが、森さんと『いっしょにうかりたいね!』と話していてたら本当に受かってしまいました。」とその時の心境について語った。杉野さん自身も在日であるが、自分はそのことを隠さずに生きてきたため、在日であることを隠そうとするえいこの気持ちを理解することはできなかったと話した。それに対し監督は「在日同胞にもいろんな考え方をする人がいます。ただ、韓国人は在日の人たちに関心がなさすぎるんです。彼らのことは『日本人だから。』と決めつけているところがあります。ですから僕は、彼らの今を知らせ、在日について考えるきっかけになればいいと思って『宝島』を作りました。」と話した。

約30名のスタッフの中で、本日登壇した安藤大佑さん、杉野希妃さん、森透江さんの他に日本人はいなかった。ディスコミュニーケーションで困ったことはなかったのか?
「特にはなかったです。集中すると相手が言いたい事が語彙はわからないはずなのに、伝ってくるんです。」と印象的なエピソードを話したのは森透江さん。「安藤さんが通訳もしてくれたので、ストレスがたまったりすることはなかったです。」と安藤大佑さんの活躍を褒め称えた。
「通訳をしながらスクリプターの仕事もこなしていたので、毎日毎日忙しかったです。」と安藤さんは、当時を思い出した様子だった。監督は「僕が日本語がまったくわからないので、安藤くんに日本のセリフについてはOKやNGを出してもらっていました。彼は、最初に会った時に在日の人々について取り上げた自主制作のビデオを持ってきてくれたので、彼なら全力でやってくれると思いました。」と、安藤大佑さんの能力を認めていた。安藤大佑さんはキム・ソンホ監督との大仕事をこなした後に、自主制作で『けつわり』という作品を完成させた。昭和の朝鮮人に対する日本人の意識のあり方など今の私たちが考えなくてはいけないテーマを扱った秀作である。

映画の中だけではなく、映画監督として、留学生として、在日として、プライベートでも韓国と深い関わりを持っている人々が創りあげた『まぶしい一日』。「両国の関係を古い記憶だけで結びつけず、人と人とが理解していくとはどういうことか。今後の韓国と日本の関係をふまえた作品作りをたくさんの人にしてほしい。」と願うキム・ソンホ監督の優しい眼差しが忘れられない。

さて、今回のイベントを主催したニューシネマワークショップでは、今後とも見逃せないイベントが満載!!「めざそうシリーズ」と題し、9月10日は「映画配給をめざそう!」、9月17日には「映画監督をめざそう!」と特別ゲストを招いてのイベントも予定されています!お見逃しなく!!

(ハヤシ カナコ)