東京国際映画祭2005:日本映画・ある視点『三年身篭る』ティーチ・イン
日本映画界の鬼才たちの数々の作品に出演し、独特の存在感と卓越した演技で観客を、そしてクリエイターをも魅了してきた女優、唯野未歩子。そんな彼女が、満を持して映画監督デビューを果たした作品が“日本映画・ある視点”部門で上映された『三年身篭る』だ。十月十日を過ぎても一向に産気づく様子も無く、それでもお腹の中の赤ん坊はどんどん成長を続けて行く。そんなちょっと不思議な物語も唯野自身のオリジナルで、彼女は本作で監督と同時に小説家としてもデビューを果たしている。23日の上映後のティーチインで、本作の着想に関してこう語った。
「動物の赤ちゃんは、生まれて直に歩くんですよ。人間の赤ちゃんも生まれて直に歩ければ、お母さんの子育てでも子供が面倒をかけずにやっていけて、一挙両得というか、いいことばかりじゃないかって思って(笑)。
今はお母さんになる、お父さんになるということが、すごくかけ離れていると思うんです。でも3年間あればお母さんにもなれるし、お父さんにもなれる。また子供が生まれてからでも、その子が虐待や酷い目にあう可能性が0ではないと思うので、その前にどうにかなれるといいなと思ったんです」(唯野)。
冒頭の掃き掃除をしていたらキリが無くなり遠い山まで行ってしまう幻想や、お腹の中で暴れる子供の足が飛び出すなどコミカルな場面も少なくない。
「遠くまで掃いてドンドン行ってしまうのは、私が子供の頃に家の前を掃いていた時にどこまでいけばいいのかな?って思った実感で、まさにそれを絵にさせてもらいました。トンカツを揚げるところなんかも、凄く音が大きく感じる瞬間ってあるじゃないですか。そういう実感というか、そのまま感じることをやらせていただいた感じなんです。それがアニメっぽい感じなのかもしれませんが、私の実感なんですよ」(唯野)。
いかにもちょっと不思議な存在感をふりまく、唯野らしい話ではないか。なお会場からの子供は10ヶ月で生みたいか、3年かけて生みたいかとの質問には…
「10ヶ月で生まれてくれれば合格。もうちょっとかかるかもしれないし、3年で生まれてもらえるかどうかも定かではないですが、精進したいと思います」(唯野)。
(殿井君人)
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