10月13日土曜日、渋谷セルリアンタワー東急ホテルにて、『天空の草原のナンサ』監督の来日記者会見が行われた。ビャンダスレン・ダバー監督は、『らくだの涙』以来二度目の来日。モンゴル・ウランバートル生まれの彼女は、モンゴル国営テレビの司会者や助監督を経て、現在はドイツ、ミュンヘン映像映画大学(HFF)のドキュメンタリー科で学んでいる。これまで数々のドキュメンタリー制作を手がけているが、劇映画の監督は今回が初めてとなる。またこの作品は、アカデミー賞のモンゴル代表作品としてエントリーすることが決定している。

Q 撮影中、子どもとのコミュニケーションはどのようにとりましたか?
(演技について)こちらから具体的にああしろ、こうしろという説明はしませんでした。友達として遊んでいるという感覚で撮影を敢行しました。

Q 犬の演出はどのように行いましたか?
子どもより犬の方が扱いやすかったです。子どもは気分が変わりやすいので、気分が乗らないと撮っても意味がありません。犬の場合はカメラを意識しないし、ソーセージを置くだけで、そちらに向かって駆け出すシーンを撮ることができます。私はドキュメンタリーの手法を用いて撮影するので、子どもの場合は、欲しい動きが出るまで、粘って待ち続けなければなりません。その一方で、思いもしなかったいい動きをしてくれることもあり、今回も期待していなかったものがたくさん撮れました。

Q 映画の中に登場する家族はどのように探しましたか?
2週間かけて探しました。条件に合った家族を探すのは非常に苦労しました。条件は二つありました。ひとつは学齢期の子どもが何人かいること。もうひとつは、伝統的な遊牧民として生活している一方で、撮影チームを受け入れるオープンさも兼ね備えていること。学齢期がいる子どもを持つ家族を探していたのは、それが家族にとって伝統的な生活をやめて都会に出るかの選択をする分岐点になるからです。寄せ集めの家族を擬似的に作ろうかという話もありましが、それだけは絶対に駄目だと反対しました。

Q 今回はフィクションとして初めて脚本も担当されましたが、ドキュメンタリーと違い苦労された点はありましたか?
実在の人物を撮っているので、ドキュメンタリーでもフィクションでも特に違いはありません。ストーリーは全部自分の頭の中にあるので、本当は書いても書かなくても同じです。ただスポンサーを納得させるためには書かなければなりません(笑)。

Q モンゴルの自然は厳しいが、撮影での苦労は?
自然の厳しさは『らくだの涙』の時に経験しているので問題はありませんでした。今回大変だったのは、撮影チームと現地の人達をつなげること。撮影チームは現地の環境に適応できる人達を選びました。人というのは自然の一部であり、人は自然と共存していくものです。都会の暮らしをするためにモンゴルに行ったわけではないので、撮影チームも現地の人達と同じように生活するように心がけました。撮影が終了するまでには、皆が家族のような絆を感じるまでになりました。

『天空の草原のナンサ』は、祖母から聞いた昔話とモンゴルで語り継がれる「黄色い犬の伝説」を下敷きにしたモンゴルの家族の物語。現在モンゴルで起こっている都会化と、それによる遊牧民存亡の危機という社会変化について長い間ドキュメンタリーという手法で取り組んできたビャンダスレン・ダバー監督。控えめで清楚な印象ながらも、丁寧にひとつひとつ答える口調からは、しっかりとした意志の強さが感じられた。
(aueda)

『天空の草原のナンサ』は、2005年12月中旬から日比谷シャンテシネにて公開

□ 作品紹介
天空の草原のナンサ