今年のカンヌ国際映画祭の批評家週間に出品され、フランス作家協会賞(脚本賞)ほか4賞を受賞するという快挙をなしとげた、内田けんじ監督の『運命じゃない人』。現在渋谷東急にて開催中のぴあフィルムフェスティバルでは、2003年のPFFアワードでの内田監督の受賞作『WEEKEND BLUES』を上映し、彼の原点であるこの作品をめぐってのトークイベントがおこなわれた。
 長年つきあっていた彼女にふられた主人公がきまぐれに手にした不思議な薬によって一晩記憶をなくし、目が覚めるとまったく家から遠くはなれた千葉の町にいた。親友の健二(内田監督本人が出演)とその空白の記憶を推測していくのだが、そこには想像だにしない事実が…。
 『運命じゃない人』で高く評価された内田監督の脚本の上手さ、時間軸を自在にあやつりスリリングなストーリーテリングの無駄のなさはこの『WEEKEND BLUES』のころから顕在したいたことを実感。上映後のトークイベントでは、内田監督に加え、サッカー部時代からの幼馴染だったという主演の中桐孝さんが登場し、約4年前の撮影当時について振り返った。風呂なしアパート生活で、土日に友達を集めて制作したこの作品では、中桐さんをはじめ出演者のほとんどが監督の幼馴染のサッカー仲間だったという。ほぼ素人の友人を役者に仕立て、これだけのスリリングなドラマを展開させていく技はさすがのセンス。彼らへの演出に関しては、「みんな、実際本当にこんな感じなんですよ。」と普段の彼らのパーソナリティーに沿ったキャラクター設定なんだとか。しかし一方主演した中桐さんは「すっごい何度も何度も怒られたりやり直しさせられたりしましたよ。」と内田監督にチクリ。劇中の主人公同様女性に去られたばかりだったという中桐さん。「そういう辛いことも映画でネタになってくれればいいかなと思って。」と意外な芸人根性もみせてくれた。
 「これ作ってた頃は、まさかこんなところで上映することになるとは思ってませんでしたから不思議な感じがしますね。」という内田監督の言葉に深くうなづく中桐さん。内田さんが映画監督になったことについて中桐さんは「中学時代からずっと映画監督になる!っていってましたからねぇ。」と感慨深げに語る。映画監督をこころざしたきっかけは?との質問には、「ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』です。あんなに面白いと思って入り込んでた映画なのに最後にNGシーンが挿入されてていきなり汚いTシャツのおじさんたちが画面の端から表れて、本当だと思ってた世界だったけど、人が作ったものなんだ。こんなもの作ってしまうなんてすごいなぁ。と思ったのがきっかけです。」と素敵な話を披露してくれた。
 内田けんじ監督の最新作『運命じゃない人』は、いよいよ今週末!7月16日(土)よりユーロスペースにてロードショー!!
(綿野)

◆作品紹介
『運命じゃない人 』