コリアン・シネマ・ウィーク2004:素晴らしい色彩で少年の日々の夢を描く『マリ物語』イ・ソンガン監督ティーチイン
日本未公開の韓国映画5作品を一挙に上映する「コリアン・シネマ・ウィーク2004」、最終日はイ・ビョンホン、アン・ソンギら実力派俳優たちが声優に挑戦したアニメーション作品『マリ物語』が上映された。描線がなく色彩そのものの美しさを前面に押し出し、光や水の描き方が強く印象に残るこの作品は、少年の日々の夢や憧れを不思議な世界との出会いを通して描くノスタルジック・ファンタジー。その世界観は宮崎駿や大林宣彦、鈴木翁二を思わせる瑞々しさに溢れている。上映後行われたティーチインでは監督のイ・ソンガンが登壇。
「自分の作品が日本で公開されたのは今回がはじめてですごくうれしいです。韓国では2002年に公開されました。少年の夢を大人になっても忘れることなくずっと心に残っている、そういう物語です。幻想の世界はファンタジーというよりも現実ではないけれど現実として信じたい、そうであってほしいと思っていた世界です。」
Q.宮崎駿の世界観に似たものを感じましたが制作にあたって影響をうけたものは?
「宮崎さんの作品は好きですね。『マリ物語』の前は自主制作で短編をつくっていて、商業的なものは今回がはじめてです。影響を受けたというよりも、新しい自分のスタイルを作ろうと心がけて制作しました。日本はまんが文化の基礎の上にアニメーションが栄えていますが、韓国ではアニメはあまりまだ発展していません。その中で、自分のスタイルとしては描線がないこと、淡い色彩にはこだわりました。」
Q.ではアニメにこだわらず漫画や映画、小説など監督が影響を受けたものは?
「子供のころ影響を受けたもの?うーん、ちょっと思いつかないなぁ・・・。私はアニメを作る前は画家をしていたので、画家としての性質が作品には影響していると思います。多くの画家は、非現実的な幸せを夢見ており、追い求めるもの。そういう自分の性質はこのアニメに現れていると思いますね。」
Q.イ・ビョンホンさんやアン・ソンギさんの声優はいかがでしたか?
「最近日本でイ・ビョンホンさんが爆発的に人気ということは私も知っています。彼は私がOKを出しても、自分が納得しないと何度もやりなおしていましたね。8回もやりなおしたときは、結局どれがよかったのかわからなくなったりしました(笑)」
Q.韓国アニメ界の状況は?
「韓国では国が映画製作に力を入れ協力しており、アニメもその中に含まれています。けれど韓国では大人がアニメを楽しむという文化がまだなく、こうしたアニメの製作本数を年間で1本か2本です。」
実写で撮影されてもなんの違和感もないであろうほどのリアリズムやアニメらしからぬ抑えた演出、しかしそのなかに表出される美しい少女マリのいる異世界の夢のような美しさ(飛翔する身体、空と緑の広大なイメージ、巨大な犬の背に乗って散歩、少女への初恋以前のプラトニックな恋情など、ファンタジックな“うっとり”シーンは一見の価値あり)、そして少年の大人への成長が胸に迫る傑作だ。まだまだ未開拓の韓国のアニメーション界だが、それだけにこれからもっと進化していくジャンルなのかもしれない。
※なおこの作品は2005年初夏全国ロードショーが決定。見逃した人はちょっと先だが来年まで気長に待ちましょう
(綿野)
□作品紹介
マリ物語