大学にも行かず何となく日々を過ごしている大学生カムランと、彼とつるんでいるポン友のマンスール、そしてマンスールが思いを寄せる女子大生のアイーダ。そんな彼らの関係を描いた『ディープ・ブレス』は、70年代のヨーロッパ映画を髣髴とさせるムードの作品で、これまで我々がイメージしてきたイラン映画とはかなり印象を異にする青春映画だ。
 監督は処女作『南から来た少年』で東京国際映画祭ヤングシネマ・ゴールド賞を受賞し、本作が第3作目になるパルヴィズ・シャバズィ監督。今回この作品で、児童映画ともエキゾチシズム映画とも異なる、新しいタイプのイラン映画を知らしめてくれたのだ。
 今回若者を主人公にした作品を撮ったことについて、監督自身と登場人物との心理的な関連を問われた監督は、あわせてアジアフォーカス福岡映画祭で目にした日本の若い観客の姿を紹介しつつ「今の僕は若くないからね(笑)。これは現代のイランの若者の話です。気持ちはそれほど自分と離れてないと思いますけど。またこれはイラン限定の話ではなく、今の世界の若者と共通点が多々あると思うんです」と語った。
 本作は構成に捻りがあり、ラストに関しても観る者の判断にまかせるような作りになっている。客席からは、そのあたりに関しての質問も活発に行われた。ネタバレにも繋がるため、ここではそれを詳述することは控えるが、作品のそこここに保留した部分を残したのは、まさにパルヴィズ監督の思惑通り。「テーマをはっきりさせたかったら、多分本に書いてると思いますよ。86分の映画なので、映画の中にある感覚を観る人が同じく感じてもらえればいいと思ったんです。全ての台詞はストーリーの流れに沿ったもので、不要な台詞は一つもありません。自分が観客として、この作品のテーマを考えてみると、全てのものには決断が無い、はっきりさせてないものばかりということでしょうか。この作品では、双子、カップル、二人組みなど二つの要素を沢山いれています。エンディングも二つの意味を用意しているんです」。
(宮田晴夫)

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ディープ・ブレス