日本でも『山の郵便配達』がロングラン・ヒットとなったフォ・ジェンチー監督の最新作『暖〜ヌアン』(原題)は、10年ぶりに故郷に戻って来た青年ジンハと、彼の初恋の女性ヌアンと今は彼女の夫となっている聾唖のヤーバそれぞれの想いが、現在とかつての日々の回想を綯交ぜにしながら、中国の豊かな自然を背景に情感豊かに描かれたラブストーリー。11月4日オーチャードホールでの上映では、客席から想いのこもった力強い拍手がなりやまなかった。上映後のティーチ・インでは、監督と3人の主要キャストが登場し、まずはそれぞれ感動の余韻覚めやらぬ客席に向け、感謝の言葉とともに挨拶をした。

フォ・ジェンチー(監督)——『暖〜ヌアン』を観に来ていただいてありがとうございます。私の『山の郵便配達』が日本の皆さんにとても愛されたことを、とても感動しています。映画というのは、とてもいい表現や方法であり、こうした人間の情感や感情、連帯を強めるもんだと思います。ありがとうございます。

リー・ジア(ヌアン役)——皆さんは、この作品をご覧になって何を感じられましたでしょうか?人間が成長する過程には、強くらならければならないことがあると思います。現在私たちは、忙しさの中で幼い日々のことを忘れているかもしれません。この映画を通して、そうした若い頃に思い描いていた夢や希望を、心の中に思い起こしてもらえれば嬉しいです。

グオ・シャオドン(ジンハ役)——皆さんがお時間をさいて、この作品を観ていただけたことを、大変嬉しく思います。またこのように東京に来れて、大変嬉しく思います。私たちがこうしてお会いできることこそ、映画の不思議な魅力だと思います。

香川照之(ヤーバ役)——台詞の無い役だったので、短めにいきます。僕はこの現場で中国語は全く判らず、中国語が喋れない唯一の日本人だったので、この映画のヤーバという役にはまさにうってつけで、何を言っているかわからない、何を喋っていいかわからない本当にその状況どおりの人物設定を与えていただいたことに、この映画がやりやすかった一つのポイントがありました。現場では通訳を介さないと一言もコミュニケーションは取れなかったのですが、この現場ほどスタッフと監督、キャストの方々に、こんなに優しく一体感をもって受け入れられ、揺り篭の中のように映画が撮れたことは、この作品の後にも先にもありません。この映画が日本で初めて上映されたこの日は、僕にとっては中国から持って帰ったものすごい宝物をお見せしたような、ありがとうという気持ちでいっぱいです。

 情感溢れる本作について、フォ・ジェンチー監督は、「この映画を素材として選んだのは、誰にも心にしまいこんである忘れられない体験や故郷があります。普段の生活の中で忘れているようで忘れられない追憶を描きたかった」とコメント。そして主人公の二人を演じたリー・ジアとグオ・シャオドンは、北京電影学園の同じクラスの卒業生同士で、監督とは以前の作品で一緒に仕事をしている。また、中日の映画界の交流が盛んになってきていることを背景に、投資家サイドより日本人の俳優を起用しては?との提案があり、香川照之を口のきけない青年役に起用することにしたそうだ。「私は香川さんが素晴らしい俳優であることを知っていましたし、彼が中国語が出来ないということが、ヤーバという聾唖者を演じるのに最適だと思ったんです。」(ジェンチー監督)。
 台詞のない難しい役どころを演じた香川だが、彼は難しさというよりもむしろ普段使われない筋肉が使われたような感覚を満喫したようだ。「台詞を言わないことで苦労するというよりも、それで役の中に入る障害が無くなる気がしました。だから台詞が無いことは、有用に働いたと思います。その時に役に立ったのが中国の大地なんです。あの土地に立つと何かが地の底からやってきて、僕に何かを命令するんです。するとまさに、情感のようなもの、芝居ではなくてもっと大きなものがやってくる。それが中国の力なんです。外国から来た僕には特にそれがよくわかるんです。それが中国に後押しされているという感覚なんです。」(香川)。
 なお『暖〜ヌアン』は、この後11月7日の19時からル・シネマ2での上映もある。
(宮田晴夫)

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