今回東京フィルメックスにおいてワールドプレミア上映となった韓国映画『小雨の歌』。
第1回東京フィルメックス・コンペティションで上映された『いわゆる親友』(00)を、タイ・タイロン監督と共同監督したリェン・チンホァの単独監督デビュー作である。
 上映後、リェン・チンホァ監督がQ&Aに登場。映画さながらに台湾・中国間の問題が映画製作に影響を及ぼした、という撮影秘話などを語った。

ーーーー監督は、台湾の監督の中では珍しく、北京の映画学校の出身ですね。台湾で育って作品を撮っている監督との違いはなんですか?

北京で勉強したことは監督として大きな差があることは思いません。ですが作品のテーマとして、中国大陸・台湾にまたがる問題を扱うという視点は違いといえるかもしれません。

大陸と台湾、両国にまたがるテーマを扱ったことに関して。
ーーーー監督自身のどのような考えに基づいているのですか?

台湾の生活の中で中国からお嫁に来たという子と知り合いになりました。彼女から田舎から出てきたこと、高等教育を受けていないことなどの、映画へのインスピレーションを受けました。
いいたいこととしては、例えばヒロインとおじいさんの関係です。台湾に住んでいたおじいさんと中国大陸から来た女の子は、他の国であれば、ただの「おじいさんと孫」の関係ですが、この家族のように大陸から台湾へ移住する場合に、当初、法律上おじいさんは70歳以上お孫さんは16歳以下という条件を満たさなければ滞在の許可は降りませんでした。今では14から12までに引き下げられています。本来二人は家族ですが、それでは台湾に移住する権利を満たしていなかったということになります。おそらく政府が孫の年齢制限を引き下げたのは、不正の報告による移住が出てきたせいだと思いますが、そのためこの映画のように結婚をよそおって台湾に出てくることになるのです。
思うに、今回の登場人物には実際の生活があり、それは政治、しかも曖昧な政治の影響を受けている。ですが、本来家族というものはこうした形の制限を受けてはいけないのでは?という認識を持っています。だから、今後もこうしたテーマで作品を撮っていこうと思っています。

ーーーーエドワード・ヤン監督の作品等から、都会の洗練された女性のイメージのあるチェン・シアンツィーをヒロインに起用した理由は?

映画のヒロインをほうふつとさせる話なのですが、本来この映画では中国からの女優を主役として使う予定でした。ですがまず一つとして、台湾からの補助金の問題がありました。製作に当り、台湾からお金を貰う申請をしたのですが、台湾以外の人を使うということが補助金の資格として引っかかった。もう一つは、台湾では台湾出身でない人が仕事をするのにビザが必要であり、それにも引っかかった。二つの問題、言ってみれば映画と同じ問題によって、中国からの女優を使えなかったのだと言えます。
実はチェン・シアンチーに決めるまでずいぶん彼女と話をしました。周りからもなぜ彼女なのか?ときかれました。非常にモダンな方で今までのイメージも現代女性のイメージがついている彼女ですが、ずっと話をしていくうちに、言葉や立ち振る舞いといった生まれた場所がちがうことから起こる問題さえ解決すれば、彼女でいけるはずだと思ったのです。
作品完成後、「彼女で良かったのではないか」という評価をもらっています。

「今作のヒロインを決める際に、それは映画の中と同じ運命をたどることになってしまいました。」
ヒロインの選考にあたって映画さながらの苦労があったようだが、Q&Aの最後に監督は、その結果に自信を見せた。
(Yuko Ozawa)