ジョン・ランディス監督・脚本によるユニヴァーサル映画予告編オムニバス作品『カミング・スーン』(83)の中で、ホストをつとめたジェイミー・リー・カーティス嬢は「予告編は本編よりも面白い!?」とのたまっていた。2〜3分の限られた時間の中に、作品の魅力を思いっきり凝縮した予告編。実際、ホラー・SF系映画の場合は特にエンターテイメントとしての狙いがはっきりしている分だけ、作品それ自体よりエキサイティングな仕上がりになっていることもままあったりして、予告編そのものを楽しみにする映画ファンも少なくない。最近では特典満載のDVD化の恩恵で、DVDソフトにはオリジナル予告編が収録されることは最早常識となりつつあり、手軽に予告編を楽しめるようにはなっているものの、そんな風潮にも実は盲点がある。そう、実際に日本の劇場で封切り前に上映された日本版の予告編は、近作であっても案外収録されていないことが多いのだ。日本人の国民性や慣習に合わせ、時にはオリジナル版以上に大袈裟な書き文字字幕が画面に踊り、またおどろおどろしいナレーションが流れるベタな日本版予告編が見たい!…そんなファンには感涙もののイベントが、11月22日の晩、銀座シネパトスにて開催されたのだ。
 “『フレイルティー/妄執』公開記念イベント ホラー映画予告編 NIGHT 蔵出しスペシャル”と銘打たれたこのイベントでは、怪奇映画の牙城でもあったユニヴァーサル映画などの作品を配給しているUIP映画が、古くは75年の『ジョーズ』から来年公開予定の最新作『レッド・ドラゴン』まで35作品のホラー映画の日本版予告編を、旧作はしっかりニュープリントをおこして上映するという画期的なもの。『13日の金曜日』シリーズなどの有名シリーズ作品もあれば、地方併映、単館系など、公開当時リアルタイムに映画を見ていたとしても、なかなか見る機会が無かったであろうタイトルも多数含まれている。MCを映画文筆家の鷲巣義明氏がつとめ、ゲストは平成のホラー・クイーン三輪ひとみさんというのも、実にわかってらっしゃる人選だ。
 前半18本の上映が終わったところで舞台に上がったひとみさん、「凄かったですねぇ。『13金』って何本あるんですか(笑)。」。前半の作品で本編を見たことがあるのは、『ジョーズ』と『イベント・ホライズン』くらいだそうだが、「最近の作品は予告編で内容が判ってしまうものが多いけど、旧い作品は違いますね。当時の時代の流れが判って面白いし、逆に新しい感じがします」と、結構その魅力にはまられた御様子。因みに、ホラー映画の出演も多い三輪さんだが、観客としてはスプラッターは苦手だが、心理的に怖い作品は見てしまうそうだ。イベント翌日の23日より公開となった『フレイルティー/妄執』も、そんな三輪さんの最近のお気に入りホラー。連続殺人事件を捜査するFBI捜査官の前に現れた一人の男が語る謎と恐怖に満ちた物語は、作品の性格ゆえにここで多くを語ることは出来ないけれど、直接的な恐怖描写はほとんど用いずに、絶妙な語り口と映像表現で心胆を凍りつかせる本格的ホラーに仕上がっている必見作だ。
 その後、『13日の金曜日』シリーズDVD5枚セットや非売品チャッキー人形など、豪華&レアな賞品が当たるクイズ大会を挟んで後半18本(『ケープ・フィア』のみ1作品・2パターン)の予告編が上映された。
 また、イベント終了後に集められた上映予告編の観客投票では、
 1.『ペット・セメタリー』
 2.『アムステルダム無情』
 3.『フレイルティー/妄執』
という結果で、煽情的な要素の比較的少な目な『フレイルティー/妄執』も大健闘。これは、作品自体の力が予告編からも強く感じられるということだろう。
 個人的に印象に残ったものをいくつか書いておくと、スプラッター描写はあるもののアメリカンで脳天気な『13日の金曜日』シリーズだが、シリーズ中期の『〜完結篇』と『新・〜』は、いかにもおどろおどろしい日本版ナレーションが心地よかったし、作品自体は地味目な『ガーディアン』は、「こんなに面白そうな映画だったっけ!?」と驚かされるSFXホラー調、このあたりは予告編の醍醐味満点だ。また、ほぼオリジナル版どおりの編集である『ダークマン』なども、音楽ががらりと変えてあるため、かなり印象を異にするのだ。可能ならば、オリジナル版・日本版比較上映なんていうのも、お願いしたい気分である。『アムステルダム無情』、『エイプリル・フール』そしてこれまたナレーションが怪奇趣味を増幅させる『ハードカバー/黒衣の使者』などのレア・タイトルは、それだけで纏めてソフト化してもらいたいような逸品だ。本編の上映が無くとも、貴重な映像が見れた今回のイベントに、会場のファンも満足気だった。願わくば今後も、こうしたイベントは、是非継続して開催して欲しいと1ファンとして熱望するぞ。
 なお、『フレイルティー/妄執』は、銀座シネパトスにてロードショー公開中!
(宮田晴夫)

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フレイルティー/妄執

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