ショート・フィルムだからこそ、制約の中でスタイルを作る楽しみがある『KILLERS<キラーズ>/.50 Woman ハーフ・ウーマン』撮影現場レポート!
あるビルの1室。1枚の窓を除き全てブラインドが下ろされ、唯一外光が入ってくる窓の前に組まれた櫓には、膝と肘にプロテクターを装着した女性が一人、黙々と菓子パンを齧っている。彼女と窓の間には、不気味な存在感が漲るスナイパー・ライフルが据えられ、その時を待っている。
新人、実力派織り交ぜた異色の5人の監督による、5つのガン・アクション・オムニバス『KILLERS<キラーズ>』の、製作順では5本目となる『.50 Woman ハーフ・ウーマン』。大半の場面がワンセット、一人芝居という、異色作揃いのシリーズ中でも異彩を放つ本作の撮影が、7月の末に都内某ビルの1室で行われた。監督を務めるのは、アニメ、実写それぞれのフィールドで腕をふるい、ガン・マニアとしても有名な押井守監督。撮影は2台のカメラが回され、本番でOKが出ると、すぐにビデオを戻してはそれぞれのカットの編集プランを練っている。撮影最終日の午前中は、何本ものミネラルの2Lペット・ボトルと、菓子パンがいっぱい詰まったコンビにの袋の横で、スナイパー唯がパンを齧るシーン。監督の指示に従い、シーンごとに菓子パンを齧るのは、仁乃唯さん。その数は10個に及び、カチンコにはシーン・ナンバーとともに、“コーヒー・シェフ 神戸屋 100円”といった具合に、パンの詳細情報も記載され、そんな部分の拘りも押井監督らしいかも。10個目のシーンが無事に終わった所で、昼休みとなったが「食事なんだぁ。お昼はいりません」と苦笑する仁乃さん。そう、午後には“おにぎり”の部の撮影も待っているのだ。
休憩時間の合間に、押井監督、仁乃さん、そして本作の銃器特殊効果を担当した、納富貴久男さんが、作品について語ってくれた。
Q.今回の作品についてお聞かせください。
押井守監督——20分で何が出来るかから発想したんです。ディティールだけがあって、物語は無い。銃がテーマということで、スナイパーの話をやろうとは思ったのですが、20分なら1セットに近いスタイルがいいかなと。スナイパーって撃っちゃって終わりか、もしくは何故その瞬間撃てなかったかというものが多いけど、撃つまでの時間何をやっていたのだろかというのを映画にしようと思ったんです。単純にいって、多分飯食ってるんじゃないかと(笑)。あとは、他の映画に出てきたことがないような、本格的なスナイパー・ライフルを出してみたいと。50口径はあまり映画に出てきたことは無いし、勿論日本では初めて。ちゃんと動くものをと納富さんにお願いしたら「出来ます」ということなので、運命を委ねました。あがりとしては、いいものが出来たのでほっとしているところです。
Q.仁乃さんの役柄は?
仁乃唯さん——唯という自分と同名のスナイパーなんですけど、背景や誰に依頼されたかなどは一切語られず、依頼を受けてやって来て標的を待つが現れない。ひたすら、食べて食べてという大食漢。実際、この銃を扱うに当たって説得力のある動きが出来ないといけないということで、身体も鍛えたりしましたが予想を遥かに上回るモンスターぶりでしたね(笑)。
Q.銃の設定等にについてお聞かせください。
納富貴久男さん——50口径はドルフ・ラングレンの『SILENT TRIGGER』(邦題スナイパー/狙撃)という映画に出てくる銃なんですが、長距離射撃が可能ですが、単発で薬莢が自動的に排出されるわけではなく、自分の手で出さなくてはならないが、そういう仕種が味があるんですね。形もこのように不気味な形をしてますし、単に渋いところではもっと渋いものもありますが、かなりいろいろな所に表情がある銃でいいのではないかと。製作にあたっては特定のベースは無く、完全にスクラッチしました。
Q.標的は何ですか?またその状況は?
押井監督——スナイパー映画は、ターゲットが何なのかが一番大きなテーマですよね。だから僕は誰でも知ってる誰かを撃とうと思ったのですが、その人に断られそうなので、別の業界では超有名人を抹殺することにしたんですけど。それは撮影しちゃって、合成待ちですね。見事に頭を消し飛ばす予定です。実在する誰かと言うことは考えてましたね。それくらいのインパクトがないと、物語がないわけだからバランスが取れない。
映画の中では、長距離射撃をせざるをえないことが納得できる状況にはなってますよ。ガードが固くてね。50口径というのは、僕の中では色々な事態に対処しやすいという発想なんです。貫通力が高いので、極端な話車に乗っていても狙える。狙撃距離は、作中では2000メートルくらいと想定してます。それと、納富さんもおっしゃってたように映画栄えするし、やはり誰もやってないことをやってみたいというのがありました。
Q.役作りはいかがでしたか?
仁乃さん——重たいって聞いていたんで、取りあえず身体を鍛えておこうかなって(笑)。あまり余計なものを持ち込むより、実際きて色々教えてもらってやった方がいいと思ったので、余計な先入観は一切捨ててきたんですよ。
監督は必要なものだけを丹念に紡いでいきたいということだったので、極力瞬きをしないとか、生っぽいものを極力排除するように努力したつもりですが、頑張っています。
Q.発砲シーンはどのように撮られましたか?
納富さん——実際にデコイというかモック・アップに近いものなので発火装置は使っていません。撮影で色々処理をしていますね。
押井監督——銃が実際に発火するかどうかということも大事なんだけど、こういうデカイ銃を撃った時のリアクションをどう表現するのかという方に興味があったので、それを優先したほうが映画的にもお徳だと思ったんですよ。それをどう拡大して表現して見せるかが、映画の仕掛けだと思うんです。銃って、じゃあ本物を使うのが一番いいかというと、そうではないわけで、銃を撃つという表現の中の一部のアイテムなんです。それ以外にいろいろな要素を詰め込むことで、劇中である銃を撃つという表現に到達するわけだから。それと、日本人が振り回しているような軽いダミーを作ることも考えなかったです。その方が、面白い画が撮れると思ったし、予算も無かったし(笑)。制限の多い作品には絞込みが必要で、落しどころを明確にしておかなければなんともならないと思っていたので、テーマ、出演者、シチュエーションなどシンプルにしましたね。この銃が一番の主役で、これ以外は出したくなかった。
台詞も、スナイパーは基本的にはしゃべらないもんだし、なしでいって、それで状況をどうわからせるかに頭を絞ったほうが面白くなるだろうって。録音部もいらないし、撮影が快調に進むとかメリットも沢山あるんです。必要が無い限りはいらないと思っているし、ショートフィルムだからこそ制約の中でスタイルを作ってしまう楽しみというかね。
Q.仁乃さんを主人公に選ばれたポイントは?
押井監督——これはもう明確で、女の人を主役に据えてしか撮りたくないと思っていたんです。特に実写に関しては。ただ一つ問題だったのは、日本の女優さんは銃に馴染まないし、持っても絵になりにくい。たまたま彼女が出ていた別の作品を見て、途中で本物の女じゃないということには気づいたんだけど、女に見えることが大事であって女である必要はないんだと。それならこういう重い銃も扱えるだろうし、様になる。それで上手くいけば新たな展望が開けるかもしれないと思ったわけ(笑)。『アヴァロン』という映画では、ポーランドの女優さんが頑張ってくれたけど、外人さんの場合は、ある程度最初から点数が高いのですが、日本の女優さんの似合う武器って短刀くらいしか無いわけで、こういうスナイパー・ライフルとなるとこういう人しかいない。あと、仁乃は音楽もやるし、脚本も書いてるし、変わった経歴も持っていて面白いヤツだと思ったし、一緒に仕事をしてみたいと思ったとそんなところですね。彼女との出会いがあって、生まれた企画でもあるね。
なお、『KILLERS<キラーズ>』は、2002年公開予定。
(宮田晴夫)
□公式頁
ガンコン
□作品紹介
KILLERS<キラーズ>/.50 Woman ハーフ・ウーマン
KILLERS<キラーズ>/Pay Off
KILLERS<キラーズ>/CANDY
KILLERS<キラーズ>/キラー・アイドル
KILLERS<キラーズ>/パーフェクト・パートナー
□スーパーレポート
オムニバス・アクション『KILLERS/Pay Off』きうち組撮影快調!