フランスでもまだ公開されていない、02年カンヌ映画祭(コンペティション)部門正式出品作品である『見えない嘘』が、このフランス映画祭横浜で公開された。場内は座りきれない人であふれるほどの大盛況。90年代のフランスで実際に起きた事件に基づいて映画化された作品。人間が持つ暗い影の部分が開放されるとき、悲劇が生まれるとのこと。舞台挨拶では「密度の高い作品なので、心の準備をして下さい。」とコメントがされ、満員の観客は表情を引き締め、上映に望んだ。
16年間も嘘をつらぬき、あげくに袋小路に至った主人公が悲劇的結末を迎える『見えない嘘』。実際に起きた事件が題材であり、16年間も嘘がバレなかったことに謎を感じた観客からはそのことに関する質問がいくつも寄せられた。嘘と判明しなかった理由としては、私達も普段他人をみているようでみてないという点や、医者という社会的地位が周りを信じ込ませてしまったのかもしれないという答えが。たくみに信頼させてしまうその嘘は、狂気の中の賢さだったようだ。一方で主人公自身は、いつも汗をかき、微妙なバランスの上で生きることに苦しんでいた。ゆえにいつかはこの悲劇的な結末がくることがわかっていて、むしろ自身でこの偽りの人生に終止符を打ちたかったのかもしれないと監督は語る。また騙された妻や友人については被害者であり、嘘を信じようとした共犯者だったのかもしれないとジェラルディン・ペラスは語った。(Mika Saiga)