1973年に世間を騒然とさせた元韓国大統領候補、金大中氏の拉致事件が、日韓を代表するキャスト・スタッフにより、大胆な着想の社会派エンターテイメント大作『KT』として昨年の夏から秋にかけて撮影が行われ、注目と期待が高まる中でこのほどつに完成、2月5日に有楽町よみうりホールで開催された完成披露試写会で、そのベールがはがされ複雑な状況を個々の人間ドラマと共に娯楽作品として描ききった内容で、満員の観客から熱狂的な支持で迎えられた。
 試写会当日は阪本順治監督をはじめ、佐藤浩市さん、キム・ガプスさん、ヤン・ウニョンさん、原田芳雄さんという日韓キャスト陣が来場し上映前に舞台挨拶を行った。
 一昨年の『顔』で映画賞を総舐めにした阪本監督、本作の企画を立てたのはそんな2年前から。「ほとんどの人から誰がそんな隣の国の大統領の話を観るんだ?とずっと言われてましたので、今日こんなに沢山の方が来てくれて嬉しいです。大変だったのは、やはり製作費。最近こういった作品が無いからこそ、こんな作品があった方がいいということを理解していただくために頑張りましたが、それで賛同していただけた方たちによってやっと出来上がった作品です」と、必ずしも簡単ではなかった製作の想いと感慨を語った。
 『トカレフ』など阪本監督作品は4本に出演し、5作目となる本作で主演を果たしたのは、佐藤浩市さん。「阪本劇団に入ってかれこれ9年目くらい、それだけいると1回くらいは主役の座が回ってくる、それだけのことだと思いますよ。僕自身、この作品を観て情感の映像のようなものを一切ぶった切った氷のような肌触りが好きで、監督のおっしゃったとおり、こんな写真があってもいいという作品に仕上がったと思います」と、冗談を口交えつつ、作品への強い手応えが感じられた。
 陰謀の責任者という強力でありながらしかし同時に歯車でしかないKCIAの一等書記官を演じたのは、韓国映画界で実力派NO.1としてしられるキム・ガプスさんだ。彼が本作に出演を決意したのは、どのような部分だろう。「最初に脚本を読んだときは、現大統領である金大中氏の30年前を映画化するということで、正直驚きました。しかし、シナリオを最後まで読み、また阪本監督と話し合って是非この作品に出たいと思いました。これは当時の困難な政治状況の中で、犠牲にならざるを得なかった小さな1人の組織員が描かれていたので、是非出演したいと思ったのです」と作品が内包する魅力を語った。
 鮮やかな赤いドレスで登場した紅一点、ヤン・ウニョンさんは本編中では日本語の台詞が多い。舞台挨拶でも「はじめまして。皆さんにおあいできて嬉しいです」と日本語で挨拶をしたのに続き、今回初めて仕事をした日本の監督である阪本監督について「監督は現場で俳優よりも強い眼差しを持っている方、私が現場で自信が無かったり不安な気持ちで現場に入ったときには、「君はジョンビだからきっとできるよ」と眼で訴えかけてくれたのです。それで、不安や自信の無かった部分も乗り越えられまして、非常に感謝してます」と、阪本演出への強い信頼を語った。
 佐藤さんとは対照的に、新聞記者神川を飄々としかし強い存在感で演じているのは原田芳雄さん。二人のイデオロギーに関する会話の場面は、忘れ難い印象を残す。千鳥が淵で行われた原田さんの撮影初日は、小泉総理の靖国参拝日とたまたま重なり騒然たるムードの中で行われたそうだ。「撮影もしばしば中断されて、落ち着かない気分での初日を迎えたことを覚えています。どうも、そのまんまの気分でクランク・アップまできちゃったような気分もしますが、今日完成作を皆さんと一緒に見たいと思っています。今は不安と恍惚の中間という感じです」と撮影時を振り返ってみせた。
 なお、本作は日韓合作映画としては初めて、現在開催中の第52回ベルリン国際映画祭のコンペティヨン部門に正式出品された。その結果は、近日中に明らかになると思うが、世界からも注目を集めることは間違いないだろう。最後は、出発を直前に控えた阪本監督のメッセージで締めた。「これまでコンペには縁が無く、ドイツ人とコンパをするつもりでおります(笑)。今日は日本映画を愛してくださる方々、また政治色が強い作品ですから様々な思想の方がいらっしゃると思いますが、ここには『KT』という映画しかありません。気に入っていただけましたら、応援お願いします。楽しんでください」。

 なお、『KT』は2002年5月、新宿シネマスクエアとうきゅう、銀座シネ・ラセット、渋谷シネ・アミューズ、シネセゾン渋谷、他全国拡大ロードショー予定!

□作品紹介
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=2248
(宮田晴夫)